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広場を囲んでいる木々の向こうに、古い団地があった。
ここから見えるのは2棟ほどだが、そのベランダのほとんどで人影が動いている。
「なんだ?」
指揮台から降りると、高橋が広い額に掌を当てていた。
「ここで演奏するって告知してない筈なのになあ…SNSで広まったかな」
「我々への拍手ということか」
距離はあるものの観客がいることに、ジョンの顔は綻んだ。
「多分そうだと思うんですけど…万が一演奏の邪魔になったら困るんで、やめてもらうように僕声かけてきます。ジョンさんはスタンバイしててください」
「了解した」
慌てて駆け出す高橋を見送りながら、ジョンは再び扇型に並んで座る仲間達の中央についた。
拍手はまだ続いている。
指揮棒を片手に目を閉じると、半年以上前に行った演奏会が思い出された。
今となっては遠く、夢の中の出来事に思える。
「皆、久しぶりの演奏だ。楽しもう!!」
「はい!」
指揮者の鼓舞に、楽団員達は満面の笑顔で返した。
どうやら誰の心にも同じ風景があるようだった。
しかし、しばらく待っても拍手は鳴り止まない。
次第に周囲のスタッフ、楽団員達もざわつき始めた。
何かあったのだろうか。
もし演奏に支障が出るようなことがあったら。
そう思うと落ち着かず、ジョンは思わず指揮台を飛び降りてしまった。
「ジョンさん!」
コンサートマスターの上原や、数名のメンバーが立ち上がり引き留めようとする。
しかしジョンは、昨日の晩熱心に磨いた革靴が汚れるのを気にもせず駆け出していた。
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