十一話

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十一話

  翌日、やっと熱は下がった。   俺が三体の悪霊を公園にて退治してから六日が経っていた。けど病み上がりなので母さんや父さんからは無理は禁物と注意される。そして何故か夕凪が嵐月と一緒に我が家にやってきた。手には昨日にもらったプリンがある。俺はやっと風邪は快方に向かっているので自分で応対した。玄関にて出迎えた。 「……こんにちは。今日は元気そうだね。雄介さん」 「ああ。心配かけたな。もう大丈夫そうだから」 「ならいいんだけど。それと昨日と同じ物だけどね。ルシェリっていうケーキ屋さんのプリンだよ。けっこう美味しくって。雄介さんの口に合うといいなと思って」 「……ありがとうな。俺、プリンは好きなんだ。後で母さんや父さんと食べるよ」 「うん。是非そうしてね。おばさん、甘い物は好きって言ってたからそれもあって買ってきたんだ」   そう言って俺に手渡してくれる。白いケーキを入れる紙箱にプリンは入っているようだ。ルシェリか。とりあえず、夕凪からの差し入れのお返しでこの店のお菓子でも後日に買おう。そう秘かに決めて俺はある事を思い出した。 「……あ。そういえば。ちょっと夕凪ちゃんに話したい事があるんだ。もし良かったら上がってくれないか?」 「え。いいの?」 「いいんだ。ただ、他の人に聞かれるとまずいから。リビングで話そう」 「……わかった。何か大事な話のようだし。じゃあ、上がるね」 「うん。そうしてくれ」 「じゃあ。お邪魔します」   夕凪はそう言うと履いていたサンダルを脱いだ。玄関から廊下に上がり込んだ。俺は背を向けて彼女をリビングに連れて行った。ドアを開けてソファーに座るように促した。夕凪は俺から見て向かい側に腰掛ける。   俺はちょっと待っていて欲しいと言い、台所に行く。もらったプリンを冷蔵庫に仕舞う。そうしてから夕凪に飲み物は必要か訊いた。紅茶がいいと言うので急いで棚からティーバッグの入った箱を出す。一つ取り出してマグカップも用意する。ティーバッグをマグカップに入れると半分ほどお湯を注ぐ。蓋をして一分半くらい蒸らした。そうしてから蓋を取り冷蔵庫から氷と冷たいミネラルウォーターを出す。後、ガムシロップもだ。トングで氷を五個程入れてミネラルウォーターを注いだ。ガムシロップも入れた後でレモンも冷蔵庫から出した。ヘタの部分をナイフで切って輪切りにした。そのレモンに切り込みを入れた。マグカップのヘリに切り込みを入れたレモンを添える。   アイスレモンティーが出来上がった。俺もアイスコーヒーを用意してお盆に二つのマグカップを乗せる。リビングへと向かった。 「……アイスレモンティーを持ってきたんだが。口に合わなかったら言ってくれよ」 「……え。わざわざ、アイスで淹れてくれたの。ううん。文句は言わないよ。私、むしろレモンティー好きだから」 「ふうん。そうなのか。なら良かった」   俺はそう言うと夕凪の近くに行き、マグカップを机の上に置いた。アイスコーヒーは向かい側に置いてソファーに座った。夕凪はマグカップを手に取るとこくりと飲み始める。 「うん。美味しい。雄介さん、気が効くね。今は暑いからスッキリしていて丁度いいよ」 「いや。その。夕凪ちゃんの好みがわからなかったから当てずっぽうで淹れたんだが」 「ふふっ。でも私のことをちゃんと考えてくれてるし」   夕凪はにっこりと笑う。その笑顔は優しくて不思議と顔に熱が集まった。 「……それよりも。その。さっき、話したい事があるって言ってただろう。昨夜にちょっと変な夢を見てな。だから夕凪ちゃんにも聞いてもらいたいと思ったんだ」 「……そう。話したい事ってその夢の事だったんだ。いいよ。説明してもらえるかな?」 「ああ。実は……」   そう言って俺は昨夜の夢の内容を詳しく説明した。夕凪は驚きながらも時折、相づちを打ちながら聞いてくれる。全てを話し終えると考え込むような表情になった。 「なるほど。ご先祖の弓月さんと木綿乃さんが出てきて言い争いをしていたと。しかもその内容は浮気相手を巡る事だったのね」 「そのようだな。で、夕凪ちゃんは木綿乃様の記憶を持っていると言っていただろう。だから話したんだ」 「……ふうむ。確かに私に話して正解かもね。雄介さん。私、思ったんだけど。五十鈴さんは後に真夏さんと婚約させられたのよ。なのに弓月さんは無理に奥さんとして扱った。それが遺恨の原因ね」   夕凪は厳しい表情で告げた。俺はあまりの事に言葉が出ない。まさか、本気で弓月様が不倫していたとはな。そりゃあ、木綿乃さんが怒るわけだ。 「雄介さん。嵐月様に呪いをかけた犯人は。たぶん、弓月さんと五十鈴さんの不義の子だわ。確か名前は衣緒依。彼女は真夏さんと木綿乃さんを恨んでいたから。後ね。弓月さんは呪いをかけられていたの。かつて倒した鵺に」 「……なっ。弓月さんは鵺に呪いをかけられていただって。それ本当なのか?」 「本当よ。それは雄介さんにも受け継がれているわ。それを解く方法は私が知っているけどね」   夕凪は儚げに微笑んだ。普段と違う様子に俺は違和感を覚える。 「……夕凪ちゃん?」 「……解く方法はね。私の体にアステラス様という神様を降ろすの。その神様の力で呪いを解くのよ。ただ、これはすごく危険な方法でね。下手するとあの世行きなやり方ではあるの」   俺は息を飲んだ。呪いを解くには要は夕凪が犠牲になるという事で。彼女はそれを承知の上で俺に告げたことには少しして気づいた。俺は立ち上がると夕凪の側に行く。痛ましげに見ても彼女は苦笑するだけだ。何も言えず、ただ肩にそっと手を置く。そうした後、強く夕凪の体を引き寄せて抱きしめていた。悲しみが込み上げるのを押さえるようにぎゅっと腕の中に閉じ込めたのだった--。
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