二話

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二話

  悪霊を倒した後、嵐月は俺の肩をポンと叩いた。 「……雄介。生きた人で恋人を探せ」 「そうだな。嵐月の言うとおりだ」   頷くと嵐月は苦笑する。俺も仕方ないかと思う。その後自宅に戻ったのだった。 「……お帰りなさい。雄介」   出迎えてくれたのは母さんだ。名を光村 夕子という。母さんはショートカットでぱっと見が年齢不詳の美少年に見える。本人に「若い女の子やおばさまにもてそうだよな」と言ったら無言で胸ぐらを掴まれた。そうしてギリギリと首を締め上げられた……。今となっては苦い思い出だ。 「ただいま」 「あ。今日も悪霊退治に行ってたのね。お疲れさん」 「うん。おかげで疲れたよ」   母さんはそりゃそうよねと笑う。こうしていたらちゃんと女性に見えるのにな。何で無表情でいたら美少年に見えるのか未だに謎だ。 「……雄介。また、くだらない事考えてるでしょう?」 「……何のことかな。くだらない事は考えていないよ」 「嘘おっしゃい。顔に出てるわよ。私が美少年だとか言いたいんでしょう」 「よくわかったな」 「そりゃあわかるわよ。あんたの事、伊達に小さい頃から見てないからね」   母さんは苦笑する。何故か、その表情が嵐月に重なった。 「……雄介。疲れたんだったら先にお風呂に入っちゃって。どうせ、父さんもお兄ちゃんも仕事で遅いだろうから」 「わかった」   母さんに言われたので頷いた。とりあえず、着替えを取りに自室へ向かったのだった。     浴槽に浸かってほうと息をついた。何故か、ミニサイズになった嵐月も風呂場にいる。浴槽に入れてあるお湯にプカプカと目と鼻先だけ出して浮いていた。心中でお前はワニかとツッコんだ。うん。今の嵐月はヘビとワニを合わせた未確認生物だ。しかもちっこい。そう思っていたら嵐月にギロリと睨まれた。 『………雄介。お前、何か失礼な事を考えているだろう』 「……何かって。何にも考えてないって」 『本当か?』   こくこくと頷いた。が、嵐月の睨みは余計にきつくなる。シャアッと口を開けて牙を見せてきた。 『お前の考えはある程度わかるんだぞ。嘘はつくな』 「ごめんって。俺はただ。未確認生物だと思っただけだ」   正直に答えたら嵐月は余計に怒ってしまった。カプリと指に噛みつかれてしまう。地味に痛い。嵐月は指から離れるとシャアッと鳴きながら睨みつけた。指からはポタリと赤い血が流れ落ちる。 『誰が未確認生物だ!?俺によくもそんな事が言えたものだな!』 「……いや。実際そうだし」 『………まだ言うか』   俺が言うと嵐月はまた噛みつこうとした。が、それを止める声が聞こえた。 『嵐月兄様。おやめください!』   風呂場に嵐月よりもずっと可愛い感じのミニサイズの未確認生物が現れた。それは翡翠の瞳と銀の鱗が綺麗な龍だった。……ちっこいが。 『嵐月兄様。守護する方に危害を加えないと父上と約束したでしょうに。けど雄介さんも言い過ぎですよ』   チクリと注意された。それでも嵐月はちっと舌打ちをしながらも噛み付くのは諦めたらしい。 『命拾いしたな。雄介』 「……ありがとよ。月華ちゃん』 『いえ。兄様が怪我をさせてごめんなさい』 「いいって。それより月華ちゃん。俺、そろそろ風呂を上がりたいんだけど」 『………あ。すみません。じゃあ、外へ出ていますね』   ちっこい龍もとい、嵐月の妹の月華ちゃんは窓から外へ行く。俺はほうと息をつき、浴槽から出る。引っ掛け棒にあったタオルを手に取り顔や身体の水気を拭き取った。全身そうすると風呂場のドアを開けた。がちゃりと音がして湯気がもうもうと立つ。嵐月も一緒に上がる。仕方なく俺はバスタオルを使って嵐月のちっこい身体を拭いてやった。迷惑そうにしているが。それでも御構い無しにやった。 『礼は言わんぞ。これでチャラにはしてやる』 「……そうさせてくれ」 『全く。ご先祖の弓月はお前みたいに未確認生物だなんて失礼な事は言わなかったぞ』   俺はそれには無言でいた。文句言って噛みつかれるのも嫌だしな。そう思いながらも身体を拭いたタオルを洗濯機の横にあるカゴにぽいっと入れた。嵐月は怒りながらもホコホコと湯気が身体から出ている。その様子が何ともシュールで笑えた。とりあえず、持ってきた半袖のシャツと半パンを履いた。靴下も履いた。そうした上で月華ちゃんを呼んだ。脱衣場の窓から月華ちゃんが入ってきた。 『あ。お風呂から上がったんですね』 「うん。じゃあ、俺の部屋へ行こうか?」 『はい』   俺はミニサイズの嵐月と月華ちゃんと共に自室に行ったのだった--。
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