八話

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八話

  その後、夕食が終わって俺は母さんが後片付けをするのを手伝った。   悪霊との戦いで疲れていたが。食器を流し台に持っていき、母さんが洗った食器を乾燥機に入れていく。現代であれば、食器乾燥洗い機があるけど。俺の家では生憎使っていなかった。父さんと母さんは手で洗えばいいという考え方なのもある。ちなみに調理する時も未だにIHクッキングヒーターなどではなくプロパンガスだ。もう、平成も二十五年は過ぎようとしているのに。おかげで友人達からは「お前ってアナログで機械オンチだよな」としみじみ言われた。そんな事を思い出しながら濡れた食器を入れていった。 「……雄介。もう食器洗いは終わるから。龍神様達を見てきて」 「わかった」   俺は頷くと最後の食器を乾燥機に入れて蓋をする。ぴっとスイッチをONにした。自動乾燥で設定してあるのでそのまま色々といじらなくてすむ。それがすむと台所を出た。自室に向かう。階段を上ってドアの前に立った。ノックをすると月華ちゃんらしき声で返事があった。ドアを開けると中には月澪様と月華ちゃん、嵐月がそれぞれ寛いでいた。 「……あ。雄介さんかや。もう夕食は食べてしまったぞえ。ありがとう」 「いえ。お口に合いましたか?」 「それはもう。美味であったぞえ」   俺はその言葉を聞いてほっとした。俺の作ったお澄まし汁の入っていたお椀も空になっている。 「雄介。幼い頃より料理が上達したな」 「ありがとよ。嵐月もお澄まし汁食べたんだな」 「……ああ。薄味だが。あっさり風味で食べやすかった」   嵐月はそう言って俺の頭を撫でてきた。月澪様も何故かこちらにやってくる。 「ほほっ。雄介さんは器用じゃの」   そう言うと嵐月と同じように頭を撫でてきた。俺は嵐月にやめろと言う。けど二名ともやめてくれない。何でだと思った。もうちっちゃい子じゃあるまいし。月華ちゃんの前で恥ずかしいだろうが。 「雄介さん。わたくしにしてみれば、孫も同然じゃ。ここは甘んじておくべきだと思うぞえ」 「……あの。俺、そろそろ風呂に入りたいんですが」 「そうだったな。母上、雄介が嫌がっていますから。ここまでにしましょう」 「まあ。仕方ないのう。雄介さん。もしお風呂から上がったら。添い寝をしてあげようかや?」 「……月澪様。俺はそこまで子供じゃないですよ。心配なのはわかりますが」   俺は月澪様のお誘いを丁重に断る。けど不満そうにされた。 「……わたくしが側におれば。危険な目にはあわないと思うぞえ。そんなに嫌かや?」 「母上。さすがに彼はもう二十歳に近い年ですよ。人型で添い寝はまずいと思いますが」 「わたくしは気にせぬ。むしろ、添い寝を了承してくれれば。少しは夜の事もお付き合いするぞえ」   夜の事と言われて俺は頬が引き攣った。月澪様は確かに超美人だが。浮気したら旦那の優月様が黙っちゃいないだろうが!もし、本当に俺が添い寝したら。それだけでも祟られそうなのに……。ちょっとはこっちの気持ちや立場も考えてくれよ!! 「……母様。雄介さんが困っているでしょう。せめてミニサイズでお願いします。でないと父様がお怒りになりますよ」 「……ふん。長年、わたくしの事を放ったらかしだったくせして今更何だと思うがのう。祟りたいんじゃったらわたくしにすれば良いわ」 「母様」   月華ちゃんが非難するように言う。嵐月もほとほと困ったという表情をする。俺もどうしたもんやらと頭を抱えた。月澪様が全然聞き入れてくれないまま、俺は風呂に入る事になったのだった。   仕方ないので嵐月と月華ちゃんにも一緒の部屋で寝てくれるように頼んでみた。だが二名からは断られる。  ふうとため息をつく。しょうがない。月澪様に添い寝をしてもらう事にした。夜の十時頃に部屋の明かりを消した。ベッドに潜る。隣にはしどけない浴衣姿の月澪様がいた。ううむ。色っぽいけど手は出すまい。 「……雄介さん。わたくしもちょっと旦那に意趣返しをしたくての。無理を言ってすまなんだ」 「いえ。俺としては優月様が怒るのが怖いですね」 「怒らせておけばいいのじゃ。あやつ、もう百年近くはわたくしを放ったらかして浮気しておるからの」   俺は意外な事実に驚いた。優月様が浮気だと。月澪様とは仲がいいと思っていたんだが。 「……てことは。浮気相手は……」 「……龍のおなごじゃないぞえ。人のおなごじゃ」 「そうなんですか。お名前は聞いてもいいですか?」 「……今の時代の子ではない。明治時代くらいに生きておったおなごでの。まあ、今で言えば。幽霊じゃ」 「幽霊が浮気相手ですか」 「そうじゃ。名は有里子。見かけは二十歳くらいのおなごじゃな」   俺は有里子と聞いてげっとなる。確か、うちのひいばあちゃんの名前じゃなかったか。ちなみに父方のだ。俺はなんとも言えない気持ちになる。有里子ばあちゃん。龍神様の浮気相手はダメじゃないのかよ。確か、龍は一度結婚したらどちらかが他界しない限りは相手を変えないと聞いた。なのに浮気かあ。ううむと考え込んでしまう。そしたら月澪様は俺の上に馬乗りになった。ゆっくりと顔を近づけると俺の額にキスをした。 「……おやすみじゃな。雄介さん」   そう囁く。俺は一晩、理性を保てるか心配になった。月澪様がにっこりと笑うのが暗がりの中でもわかった。その笑みが色っぽくてドキドキしたのだった。
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