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何処をどの様にして帰ろうとしてきたのか分からない。それ程に頭の中が真っ白だった。見るもの全てが真っ白く写った。
その日の私は絶望していた。
けれど突然真っ白の中に声が聞こえた。
声の方へ顔を傾けるとそこだけが私の白い世界に絵の具を置いたかの様に美しい世界があった。色を与えられたみずみずしい大勢のそれらは、そっぽを見る者、こちらを見る者が混在していた。立ちすくみその者達の圧倒的な何かを覚えた。心が解放され涙がこぼれ落ちた。
「目、痒くなりますよね。この時期特に。」
すると何処からか声が聞こえた。
ふっと顔を上げると少し心配そうな表情をした彼が目に飛び込んできた。
すっと丁寧に折り畳まれたティッシュを差し出しながら、
「家、見ての通り花屋なんでここ余計に花粉だらけですよ。はは…。」
「歩いていたらとっても良い香りがして思わず立ち止まっていました。」
適当な言葉を並べながらなんとか涙をしまった。差し出されたままのティッシュを後からさり気なく受け取った。
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