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時計の針は既に19:30を過ぎている。
店を閉める時間になっても彼女は現れない。外は朝から大雨でもしかしたらバスが遅れているのかもしれない。が、少し胸騒ぎがする。
電話をかけてみる。番号を打つ手が少し汗ばんでいるのが分かる。
「プルルル…プルルル……。」
出ない。
直ぐにもう一度かける。
「プルルル…はい。」
聞き慣れない女性の声だ。
「あの、花屋の三上と申します。今日ご予約頂いた花束を取りに来られないのでご連絡しました。」
「そうですか。それは大変失礼しました。あの、後日取りに行きますので、ええ、あの枯れてしまっても取りに行きますので取っておいて下さいますか。」
「枯れてしまっても、、ですか。」
「ええ。」
「失礼ですが青木さんでは無いですよね。青木さんは今そこにはいらっしゃらないのですか。」
「…娘は、娘は今夜が山だと先生が。」
目を閉じる事も、息をする事も、口が開いている事さえも忘れた。
ただ、外から聞こえてくるどしゃ降りの雨が胸をひどくひどく打ちのめすかのように大きな音を立てながら降り続いている。
電話を切り急いで病院へと向かう。
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