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「……あらぁ」
思わず手に力がこもっていた。
使いこまれて見えるサンダルを履いた足が、一歩近づいてくる。
百合はチョコ菓子をにぎりしめ、目の前の顔をまじまじと見つめた。
きついパーマのあてられた白髪まじりの髪と、まんまるい瞳と大きな口――それが動いた。
「あなた、昔きてた子よね、よく買いに」
知っている顔だ。
こみ上げるものは懐かしさではなかった。
心臓が凍りついたようになっている。息苦しい。力の限りでチョコ菓子をにぎる。
そんなはずはない、と百合は生唾を飲んでいた。
「なんだっけ、名前……ここまで出かかってるのよねぇ」
声にも覚えがあった。
「だ――駄菓子屋の、おばあちゃ……」
百合は無理に声を出した。
そこに立つのは、店番をしていたおばあちゃんそのひとだった。
駄菓子屋が閉店した理由もわかっている――おばあちゃんは倒れ、そのまま亡くなったのだ。
ここにいるはずがない。
飲みものの自動販売機の影に足を踏み入れてきたそのひとは、かくかくと顔を上下させた。
「そうそう、うちのお母さんが行儀いい子だってほめてた子だわ! 面影あるわねぇ」
「え……」
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