1 鼻つまみ うつむく先に 拾う神

10/36
前へ
/230ページ
次へ
「……あらぁ」  思わず手に力がこもっていた。  使いこまれて見えるサンダルを履いた足が、一歩近づいてくる。  百合はチョコ菓子をにぎりしめ、目の前の顔をまじまじと見つめた。  きついパーマのあてられた白髪まじりの髪と、まんまるい瞳と大きな口――それが動いた。 「あなた、昔きてた子よね、よく買いに」  知っている顔だ。  こみ上げるものは懐かしさではなかった。  心臓が凍りついたようになっている。息苦しい。力の限りでチョコ菓子をにぎる。  そんなはずはない、と百合は生唾を飲んでいた。 「なんだっけ、名前……ここまで出かかってるのよねぇ」  声にも覚えがあった。 「だ――駄菓子屋の、おばあちゃ……」  百合は無理に声を出した。  そこに立つのは、店番をしていたおばあちゃんそのひとだった。  駄菓子屋が閉店した理由もわかっている――おばあちゃんは倒れ、そのまま亡くなったのだ。  ここにいるはずがない。  飲みものの自動販売機の影に足を踏み入れてきたそのひとは、かくかくと顔を上下させた。 「そうそう、うちのお母さんが行儀いい子だってほめてた子だわ! 面影あるわねぇ」 「え……」
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加