45人が本棚に入れています
本棚に追加
冷や汗をかきながらも、百合は対峙した顔を見つめた。
記憶にある顔と寸分違わない――声も話し方も、百合の肩くらいまでの背の高さも。そうして見てみると、着ているカーディガンまでおなじ気がする。
「あの、駄菓子屋のおばあちゃんの……娘、さん……?」
娘さん、というのに抵抗を覚えるていどには、年齢が高い。百合はしどろもどろになっていた。
「なつかしぃ! あなたまだこのあたり住んでるの? 区画整理でけっこうな人数が引っ越しちゃったでしょう、店畳んでから全然ちっちゃい子見なくなっちゃって」
彼女はきびすを返し、喫煙所のほうに足を向けていく。早鐘のような鼓動を打つ胸にチョコ菓子を押しつけ、百合はその背中についていった。
以前この町で区画整理があり、百合の家もそこに合わせて引っ越しをしていた。
「引っ越してとなりの市に住んでたんですけど、会社がこっちなので」
「そうなのぉ、最近そのお菓子販売機が売れてたんだけど、お姉さん買ってた?」
「あ、はい……懐かしくて」
手のなかにあるチョコ菓子は、温度で溶けはじめたのか、パッケージ越しでもかたちが変わっているのがわかる。
「そうよねぇ、あの子がこんなお姉さんになってるなら、あたしも歳取るはずだわぁ」
最初のコメントを投稿しよう!