5 ほろ酔いゆらゆら 牛車に揺られて冥府いき

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「そっか、八咫さん名刺なんかないもんね、今度つくろうか――如月さん、八咫さんは冥府で薬の流通引き受けてくれてるんだよ」 「こっちのボスですよ」 「ええと……カルテル……?」  つぶやくと、功巳は楽しそうに笑った。 「違うよ、僕たちのは危ないものじゃないし」  さらに功巳が笑いかけたとき、車が大きく前後に振動した。激しい水音も加わり、百合は壁に片手をつく。 「着いたみたいだ」  車から功巳と清巳がまず降りようとしたとき、八咫が手で制した。 「ちょっと待て」  そういってから、八咫が瞑目する。  なにをしているのか、と見つめる百合のとなりで、彼の身体は一瞬で炎に包まれていった。熱を感じないものだったが、百合は目を丸くしていた。  青白かった炎はすぐさま消えたが、八咫の姿が変わっている。  色素の薄かった髪や瞳の色が、磨かれた鋼のような光沢を持っていく。全身にまとった陽炎に似たものが揺らめき、はらはらと千切れては桜の花びらのように散っていった。  びくりと身体をふるわせた鹿野が、百合のカバンに飛びこんでいく。 「お、八咫さん仕事モードだね」 「舐められてはいけないからな」
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