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ちらりと百合を見て、八咫は気まずそうな顔をする。
「……怖くなければいいんだが」
「えっ、私がですか? それはないです! 八咫さんすっごくきれいじゃないですか!」
幽玄を体現したような姿に、百合は感動さえしていた。
彼の顔の造形の美しさに胸がふるえることはなかったのに、いまは熱いものがこみ上げてくる。
カバンに逃げこんだところからして、鹿野にすれば怖いらしい。
カバンは肩にかけず、百合はなかにおさまった鹿野を抱きしめるようにする。
「そ……そうか? きれいだなんて、そうか……きれいか。そんなこと誰かにいわれることなんてないからか……はずかしいものだな」
照れた八咫に先導し、まず功巳から牛車を降りていった。
地面に足をつけた百合は息を飲んでいた。
空がすべて一枚の水で覆われている。寄せ返す光のさざ波をつくり、水の一粒も落ちてこない。
水底から仰ぎ見たなら、水面はあんなふうに見えるのもしれない。水底にいるのと違って呼吸ができる。
水がたゆたっているだけだというのに荘厳さがあり、ゆっくりそこで眺めていたくなるものだった。
「すごい……」
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