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水を天蓋にしたそこは、屋敷のある地下空間への門といってよかった。
屋敷――川面に隠されたそこは、開かれたつくりになっている。
広大な空間だが、ぽつんと屋敷があり、遠目には屋敷を囲むように雑木林があるのがわかる。
目指す屋敷には枯れた巨木を組んだ門があり、枯れた枝を組んだ垣根がつくられていた。その先は枝と枝の間からうかがうことができ、開け放された戸口の警戒の薄さは、打ち棄てられた廃墟と似通っている。
百合は屋敷から天上にまた目を移す。光の輪が幾重にもなりそして消える。そちらはいくらでも見ていられそうだ。
「水塀は珍しいですか、お客さま」
ずっと水でできたを見上げ続けている百合に、車を引いていた牛がやわらかい声で尋ねてきた。
「すみません、じろじろと……はじめて見たんですが、驚いています」
「見た目が美しいだけでなく、不審者をはねつける役目も果たします。多少の力では、あれはくぐれません。わたくしは許しを得ているので通れますが」
牛は誇らしげだ。
「それじゃあ帰りもお世話になるんでしょうか」
地上を歩いてみたいが、観光気分になっていることは口にしづらい。
「わたくしがお送りいたします」
牛は屋敷のほうに目配せをした。
「ごりょうさまがお待ちです。みなさま、どうぞ」
牛の声に押され、百合たちはぞろぞろと門をくぐっていった。
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