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現世の人間がみな冥府ののんびりした光景を目の当たりにしていたら、死への感情がべつのものに変化しそうだ。
「そう?」
功巳がうかがってくる。
「ええ、風景もきれいだし、くるのに身構える必要はなかったなぁ、って」
「……そっか」
「身体も冥府も、如月さんにとって大丈夫そうなのはよかった。あとは無事取り除こう」
清巳の言葉に、功巳は指を立てた。
「臓腑の洗浄あるでしょ、あれで浄化してもらう感じでいいんじゃないかな、あれならそれほどは」
「せ、洗浄?」
ぎょっとした百合の声はすこし大きくなっていた。
「なんですか、それ。いやなこと聞いちゃった……胃洗浄って苦しいって聞きますよね」
てっきり八咫が以前していたように、黒いガラスのようなものをするすると百合の身体から取り出すものだと思っていた。
「ああ、胃洗浄みたいなことはしないよ。もう食べちゃって、如月さんの血となり肉となり、でしょ。胃洗浄してもどうにもできないよ」
「ごりょうさまがスムーズに処置してくれるよう、祈っていてください」
膳の酒を盃に注ぎ、しかし清巳は手をつけなかった。
「ごりょうさまっていうのが、こちらのお医者さんですか? 看てくださる方ですよね」
聞かされている、第一人者という方か。
うなずいたのは八咫だ。
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