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冥府でのやり方は尋ねないほうがいいかもしれなかった。きっと百合の知る方法ではないだろうし、余計に気を揉むのは得策ではない。
清巳は今度は酒肴を箸の先でつついていて、軽くかき混ぜた――が、食べる気はないらしい。なにをしているのか訊くか百合が迷っていると、八咫が小声で「きた」とつぶやいた。
物音などなにもなかった。
百合たちが通された座敷の中央、唐突に女性が現れあぐらをかいていた。
百合たちと向かい合うようにした彼女は、その場にいる誰よりも背が――身体が大きかった。立ち上がり手をのばしたなら、彼女の手のひらは天井に届くだろう。
結わずに流した緑の髪は美しく、座敷の畳に清水のように流れている。よくよく見ればその髪の随所が輝いており、見入れば夜空のようだ。取りこまれてしまいそうな気がして、百合はあわてて目を逸らした。
艶やかな化粧を施した美女だが、着衣はぼろ布を幾重にも身体も巻きつけたようなものだった。
片足は隠れ、片足はむき出しになっている。露わになった両腕は肉づきがよく、それぞれに盃と徳利をにぎっていた。
「遠慮せずやれ。きよが訪れるなど、いつ振りか。なかなかうまい酒だろう? 遠慮せず飲め、食え」
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