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彼女は清巳の膳をのぞきこんでいる。口にしていないが、一見すれば手をつけたように見える。
「もういただきました。仕事の話です、これ以上はけっこう」
その清巳の声は、酔いを微塵も感じさせないものだった。
盃をそれぞれの顔の前でかざし、最後にそれは百合で止まる。
「そういうな――見慣れない顔があるな。おまえだな、今日の厄介事は」
「あの、如月百合と申します。よろしくお願いいたします」
「うまく生きたな。もういいんじゃないか?」
ばっくり、と美女の口が裂けたようになり、盃の酒が流しこまれていく。
「儂は国刺の当主だ」
「如月さん、こちらはごりょうさんと。名前でお呼びするのは、大変失礼なことですから」
「は、はい。ごりょうさん、どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げ、あらためて国刺当主を見上げると、その目は清巳に向いていた。
「それで?」
「現世でたまたま黄泉戸喫を口にしてしまいました。期間が長めですが、ごりょうさんなら浄化できるかと思ってお話に」
「できるぞ、もちろん」
徳利を盃にかたむけるが、なにも出てこない。酌をするべきだろうか――百合の膳は手つかずになっている。
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