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どうするか決めるより先に、国刺当主が空の徳利を背後に投げた。それは虚空でかき消え、彼女の手には新しい徳利がにぎられている。
「たまに顔を合わせたんだ、きよ、もっと酒につき合え」
自分の盃に手酌で酒を注ぐ彼女からは、どうにも清巳以外を歓迎している気配は見受けられない。
「これ以上飲むのは……仕事中ですので」
清巳へと顔を突き出してきた国刺当主が、鼻をそよがせていた。
「きよは真面目だな。まあ、しかたがないか」
もし漂っているなら、居酒屋で飲んでいた酒の残り香だろう。
「俺たちは遊びにきたわけではない。清巳、本題を」
手のひらで自分の前にある膳を押し出し、八咫が低い声を発した。
「八咫、わからんのか。儂はきよに話している。かまわんぞ、おまえは去ね」
八咫と国刺当主、両者が放つ声は険悪そのもので、これまで耳にしたことのない、厳しく――怖い声だった。
百合は目を丸くし、八咫を見つめた。
幽玄の炎をまとった姿は、悲しいことに怒りがよく似合っている。
「俺が辞するときは、清巳も辞する。清巳だけでなく、全員だ」
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