6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

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 八咫も国刺当主も、口元は笑っている。犬猿の仲――そう察せられるふたりのそれが笑顔でないことは、子細を知らない百合にもわかることだった。 「ずいぶんと九重に――九泉に肩入れするな。うまい汁でも吸わせてもらっているか」 「清巳たちと行動しないでいるおまえにはわかるまい。いくらでもうまい汁とやらを夢想していろ」  ふん、と鼻を鳴らし、国刺当主は清巳に顔を向けた。今度のその顔は正真正銘の笑顔になっている。 「きよ、報酬を決めた」 「交渉開始ですね」 「交渉ではない、決定だ――儂におまえの子を産ませろ」  百合は我が耳を疑い、国刺当主を見つめた。彼女は冗談をいっていない――真剣だ。  急激に顔が熱くなってきて、それぞれの顔を確認していく。  どの顔も驚いておらず、下を向いて息をついている。 「わ、私たちここにいないほうが……」  百合は囁き声で提案する。恋愛事に居合わせるのははじめてだった。  が、すかさず功巳が首を振る。 「なにいってんの、いいんだよべつに」 「ですが、告白するときはふたりきりのほうが、ムードというか」 「ああ、違うよ、ごりょうさんは昔っからこういうこというの。ただし本気なんだよねぇ」  功巳はお膳を脇に避け、膝立ちで前に進み出た。
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