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「最近ね、質のいい鵺の香が手に入ったんです。そちらを都合しますよ。それでどうでしょうか」
「儂はきよの子のほうがいい」
百合が清巳を見れば、彼は心底うんざりした顔をしている。いやな話題が出るとこぼしていたが、まさかこれのことか。
ずっと清巳にそう要求し続けているなら、よほどご執心なのだろう。
「さすがだな、国刺は。仕事に私情を持ちこむか。これからはそれが主流になるのか? まさか子を成してそれを武器にでもするつもりか?」
「なにをいう。八咫とはいえ無礼は許さんぞ」
「なにが無礼か。清巳の同意がない以上、永遠に子は得られぬぞ。これから子を得てどうするつもりだ? 子を足がかりにし、現世に出るか? 九泉の財を狙うか? 薬を独占するか?」
最初から八咫は喧嘩腰である。舐められないように、とあらかじめ準備までしていたのだ。国刺当主ととうに仲違いしていただろうことは、百合でもかんたんに想像できる。
「下衆は気苦労が多いな。現世になど儂は興味がない」
「立場を把握しろといっているんだ。おまえは冥府で水に隠れて暮らしているが、行き来が必要な清巳や功巳が、おまえの言動でどれだけ風当たりが厳しくなるか。考えもしないのだろうな」
「きよ、なにかされたのか?」
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