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八咫が怒る姿を見るのがもういやになっていた。清巳がかたい表情をしているのも、功巳が困り顔をして口数が減っているのも。
それを見ないですむのなら、べつに黄泉戸喫を浄化してもらわなくてもいいのではないか。最悪、こちらはこちらで暮らしていけそうな気がする――職や住居を見つけなくてはならないが。
「黄泉戸喫は私の事故のようなものです。どなたかに迷惑をかけるなら、私は今回遠慮させていただこうかと」
ふっ、と国刺当主が息を吹きかけてきた。ぎゅっと目をつむり、開くと彼女は元の距離に戻っている。
「……なるほど。染みこんでいるのは最近のものだな。元々土台が半死人だ、なじみはよかろう」
会話が成立しているのか、していないのか。
「私は半死人では……」
頭の奥で明滅するものがあった。
それの意味がとっさにはわからず、百合は周囲の顔を見回す。
清巳を、功巳を、八咫を。カバンを引き寄せ、生地越しに鹿野にふれる。
いま、どうしてこんなことが気になるのかわからない。
――半死人ではない。
「私は」
――半死人だったら?
清巳が話してくれたことが頭をよぎっていく。
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