6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

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 すべて遠い昔のことだろう。  小境は地盤陥没で生き埋めになった。  ――あのひと、昔ちょっと遺体としばらく一緒にいたことがあるんですよ。  だから悪臭が駄目だと。 「あの、私……」  芝田は首を絞められた。  ――あのひともちょっと大変なんですよ。自責の念が強すぎて。自分は大丈夫だ、って納得したくて、きつい言葉を使ったりするみたいなんですよね。  だから責める言葉と態度があった。  ふたりとも――蘇生がうまくいった、と。  百合も過去にあった。  駅前で車が突っこんできた事故だ。  百合は現場だった場所を避けていた。その場に立ったときの、あの落ち着かない感覚を思い出す。 「もしかして」  頭にこびりつき、離れない思考がある。  ――物流部にいた三人が三人とも、大事故に遭っている。  例外などなかったのではないか。  目の合った八咫が口をもごつかせた。 「……百合、九泉香料の採用条件だ」 「条件……?」 「みな、一度は息が止まっている。冥府を訪れ、こちらで息をし、だが現世に戻った」  半死人。  全員、一度死んでいる。  ――百合もそのひとり。
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