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珍しいという鵺の香でも、国刺当主は了承しなかったのだ。一介の平社員である百合に、それ以上のものは用意できないだろう。ましてや清巳と彼女の間に子供を、というのは、浄化の報酬としては無理難題だと思っている。清巳が望まないなら、彼女とそういった関係になってほしくなかった。
自分が取った黄泉戸喫がなんらかの影響を及ぼすのに、どのくらいの時間がかかるか――それを診断してもらえないだろうか。
「ごりょうさん、黄泉戸喫の影響っていうのは、どのくらいで出るものでしょうか。その診察はおくらいでしょう」
「診察ぅ?」
顔を歪めると、壮絶な表情になる――国刺当主はそれほどの美女だ。
「なにいってんの、如月さん。ちゃんと浄化はしてもらおうよ。そのためにみんなで出張ってるんだ」
「ですが……それに見合ったものを私は用意できません」
「ごりょうさん、お願いします」
そういって清巳がゆっくり頭を下げようとすると、国刺当主が拳で畳を二度三度と叩いた。
「おたがいの提示するものが噛み合わぬなら、交渉は決裂だ。黄泉戸喫がどう作用するか、小娘自身がその身で知ればよい」
愉快そうな声だ。
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