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さらに手を打って国刺当主がいい終わったとたんに、それは起こった。
大瀑布もかくや、という大音声が周囲を取り囲んだ――百合は耳を押さえ身を縮めていた。
障子が開け放たれていたため、一目瞭然だった。
――大量の水が落下してきたのだ。
「水塀が!」
屋敷のそこかしこから、女中たちの悲鳴と走りまわる音が聞こえてきた。
国刺当主の許しがなければくぐれず、屋敷と外界とを隔てるはずの水塀が崩壊したのだ。
百合は目を閉じたりはしなかった――驚愕のあまり、目を見開いていた。
鹿野の背後に落ちてきたのは、水ばかりではない。
屋敷を囲む枯れ枝の内側に、水もろとも落ちてきた巨大な黒い塊があった。
それはぞわりと蠢く。
とても大きい。まるでなにかの繭のような姿だったが、にぎっていたこぶしを開くようにして、抱えたなにかを解放しようとしていた。
「あ、あれ……」
怖気が走り、百合は顔を手で覆っていた。指の隙間からうかがっても見えるものは一緒で、開いた繭の内側には無数の首が生えていた。
その首たちは苦しげに顔を歪めている。
屋敷を徘徊していた、百合を一度連れ去ろうとしたあやかしだ。
起きたのは水塀の破壊だけではなかった。
あやかしの繭に包まれていたのは、巨大な獣である。
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