6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

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 百合が巨大だと感じた牛よりさらに大きく、前肢や後ろ肢は柱ほども太い。犬か猫か鼠か、判断のできない姿を持っている。その足に踏みしめられた黒い絨毯は、なぜだかじわじわと縮んでいっていた。 「鹿野さん、あれは……」  似ている――百合はそばにいた鹿野を抱きしめた。 「百合、びびんなくていいからな!」  励ましてくれる、そのちいさな身体の持ち主によく似ている。  だが鹿野の可憐な姿とは似ても似つかないほど、巨大な獣は威厳に満ち、双眸を激しく燃え上がらせていた。  獣のまなざしが座敷に向けられた。 「なんの真似だ」  国刺当主に向け、鹿野が毛を逆立てる。 「おれの母ちゃんだったら、ここを駄目にするくらいのことできるんだぞ!」 「……鹿野さんのお母さん?」  獰猛そうな姿から、それが雄か雌かは判断できない。  ――ここを駄目にする。  それは稚い言葉だが、その獣ならば確実に実行できそうだ。 「きよ、おまえ鵺になにをさせるつもりだ!」 「させるもなにも、私たちとあちらの鵺は初対面です」 「そんなわけがあるか!」  国刺当主は声を荒げたが、初対面であるのは事実だ。
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