45人が本棚に入れています
本棚に追加
百合が巨大だと感じた牛よりさらに大きく、前肢や後ろ肢は柱ほども太い。犬か猫か鼠か、判断のできない姿を持っている。その足に踏みしめられた黒い絨毯は、なぜだかじわじわと縮んでいっていた。
「鹿野さん、あれは……」
似ている――百合はそばにいた鹿野を抱きしめた。
「百合、びびんなくていいからな!」
励ましてくれる、そのちいさな身体の持ち主によく似ている。
だが鹿野の可憐な姿とは似ても似つかないほど、巨大な獣は威厳に満ち、双眸を激しく燃え上がらせていた。
獣のまなざしが座敷に向けられた。
「なんの真似だ」
国刺当主に向け、鹿野が毛を逆立てる。
「おれの母ちゃんだったら、ここを駄目にするくらいのことできるんだぞ!」
「……鹿野さんのお母さん?」
獰猛そうな姿から、それが雄か雌かは判断できない。
――ここを駄目にする。
それは稚い言葉だが、その獣ならば確実に実行できそうだ。
「きよ、おまえ鵺になにをさせるつもりだ!」
「させるもなにも、私たちとあちらの鵺は初対面です」
「そんなわけがあるか!」
国刺当主は声を荒げたが、初対面であるのは事実だ。
最初のコメントを投稿しよう!