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「坊、母ちゃんはほかになんていったか覚えている?」
姿は巨大ながら、鵺の声は落ちついた女性のものだった。
「あとねぇ、やられたら徹底的に叩き潰せ」
「そのとおり。我が子が危険にさらされて、黙っていると思うか」
鵺のまなざしと声は、百合の頭上を越えて国刺当主に注がれ――どうやら功巳と清巳にも注がれていた。
「脅されて引く国刺ではないぞ」
「そうか、いいことだ。引かずにそこで見物していろ」
一歩鵺が足を踏み出す。
そして吼える。
吼え声はまさしく雷鳴だった。
巨大な鵺の周囲に無数の稲妻が出現し、空気を切り裂きながらあたりを駆け抜けた。
稲妻のいくつかが屋敷に直撃し、天井が崩落をはじめるのは瞬きひとつほどの時間のことだ。
「あぶな……」
思考停止しながらも百合は鹿野を強く抱きしめ、かばうように身体を丸めていた。ばらばらと大きな木材が振ってくる。足を崩していた百合にはそれ以上の身動きは取れず、目を閉じ身を強ばらせるしかなかった。
衝撃と激しい音が続き、肩や背に木片が当たる。しかし気がつけば百合はどこにも痛みを感じていなかった。
「……如月さん、大丈夫だよ」
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