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それがいつもオフィスで見ていた、どうしてそこにいるかわからない、仕事もしないでいる男の笑顔だった。国刺当主と話がついたのだ、と百合は急に納得していた。
功巳が顔を真っ赤にしながら、木材に貫かれた清巳を横倒しに寝かせる。
地響きがしてそちらのほうを見ると、背に鹿野を乗せた鵺が座敷に上がってきていた。
「息はあるね」
「ど……どうしてこんな……」
「私の坊と勝手に契約を結んだことは、これで許してやる」
百合は呆然とした。
鵺は清巳ないしは功巳を狙っていたのだ――もしかすると、百合も。報復なのか、百合が清巳に目をやると、彼は億劫そうに片手を上げた。
「このたびは……勝手に、申しわけありません」
「これで許そう。あとは坊が決めることだ。国刺の坊への暴言は、家を焼いたことで許してやる」
鵺の目が百合を見据えた。
「おまえが……なんだったか、坊が気に入っている人間か」
「百合だよ、母ちゃん」
鵺の背から降りてきた鹿野が、清巳に飛び乗った。呻く清巳に頓着せず、腹に刺さっている木材を前肢でつつく。
「やめなさ、い。鹿野さん、降りて……」
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