6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

25/39
前へ
/230ページ
次へ
 鹿野を抱え、百合は鵺を見つめた。怖い印象は消えていたが、すぐとなりでは清巳が血を失い、白い顔をしている。  鵺の大きな鼻面が寄ってきた。腕のなかの鹿野と鼻先同士をくっつけ、それから鵺はなにもいわずにきびすを返す。  大きく跳躍して鵺は川底から飛び出していく――見物に見下ろしている冥府の住人たちが、優美ともいえる鵺の跳躍に、わあっと歓声とも悲鳴ともつかない声を上げ逃げ惑いはじめていた。 「母ちゃんまたなぁ」  かわいらしい鹿野の声にも振り返らず、大きな獣は視界から消えていったのだった。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加