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屋敷の周囲では、空中に水の粒が無数に浮き上がっていた。
一度落ちてきた水が、また登っていこうとしているのだ――ぶつくさ文句をいう国刺当主と女中たちが、なにやら動きまわっている。
そうしている間にも清巳の肌は土気色になっていき、狼狽する百合を功巳がなだめてくれていた。
「処置ならできるから、そんなに心配しなくていいよ。如月さんちょっと離れてて。鹿野さんと待っててくれる?」
かたわらの八咫とともに、功巳は清巳の腹から凶器を抜いていった。
どろりとした血が大量に溢れ出た。一度は勢いが弱まっていた出血だったが、いままた溢れ出る赤い水に、清巳の生命の灯火が消えてしまうのでは、とひどい不安を覚える。
「それで? 清巳、ここからは自分で?」
「……自分で」
弱く消えそうな声で横臥した清巳が応じる。
なにがどう、ということがわからない百合は、彼らの表情に焦りも絶望もないことがかえって怖かった。
「どうするかね、まだ清巳の新しい戸籍用意してないんだよね。戻ったらすぐ巳登里に連絡しないとなぁ」
営業部長の名が出て、百合は首をかしげる。
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