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「またお金かかって、巳登里に叱られるよ。ただでさえ、うちの電気系統の工事代で」
「……そのくらいの金額なら、私が稼いでいるでしょう」
清巳の身体が見るからに硬化していく。表情の動きも鈍く、呂律が怪しくなってきていた。
「しばらくあんた働けないでしょうが」
「おお……はたら、か……なくて、いいんで……すか」
「いや、前言撤回だ。めちゃくちゃ働きな」
返事はなかった。
出血も止まり、横たわる清巳はその名残のある石彫りの像のように見える。
「清巳さん……?」
息をしていない。
返答もなく、寄っていこうとした百合を八咫が止めた。
「清巳のことはこちらに任せて、百合は国刺に」
八咫の視線が後方を向いている。
追えばそこでは国刺当主が足を止めていた。
屋敷の周囲を取り巻いていた水滴はすべて消え、どうやら訪れたときの状態に戻っているようだ。
「小娘、こっちだ」
「私より、清巳さんを先に」
「きよだったら、自分のことを自分でできる。おまえはこっちだ」
功巳にも八咫にも、まったく張り詰めた空気はなかった。
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