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百合はくたくたに疲れた身体に鞭打ち、大股に歩く国刺当主の後を追った。長い髪を持ち上げ、ふたりの女中が彼女にしたがっている。百合は彼女の身体の大きさが、自分とほぼおなじくらいになっていることに気がつく。
「どうした?」
「いえ、おもてに出たら、背の高さが……」
国刺当主はにやりと笑う。一瞬口が耳元まで裂けたように見えた。
「八咫の小僧がくるのに、歓迎などできるものか」
どうやら臨戦態勢になっていたのは、八咫だけではなかったようだ。
屋敷の裏手、雑木林に囲まれた大きな石の祭壇があった。
道の先にあるそれは遠目でも目立ち、そこが目的地だと悟る。
そこに鎮座するもの――緩く弧を描いたそれは、巨大な貝だった。
細かい線の入った二枚貝は、赤と黒と灰が混じり合った色彩を持っていた。国刺当主が近づくと、貝は自然と開いていく。
「小娘、裸になれ」
「えっ」
「裸になってここに入ってもらう。それがいやなら帰れ」
「これって……浄化ですか?」
「それ以外になにがある。はよう」
百合は周囲を見渡した。
ほかには誰もいない。
ただ横に立つ国刺当主が、腕を組んで百合を見下ろしている。女中たちは下を向き、そうするしかなさそうだった。
「さっさとしろ。きよの元に戻りたい」
「あ、そうですね。わ、わかり……わかりました」
初対面の相手を前に服を脱ぐのは抵抗があるが、百合は意を決した。
畳むのもじれったく、脱いだ服をひとまとめに丸めていると、国刺当主が顔を寄せてきた。
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