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「なあおまえ、ここに治療の第一人者がいるというのは誰が? 儂のことだろうが、誰がそう教えた?」
背中をぴたぴたと叩かれる。
「あー……功巳さんだったか清巳さんだったか……社内でのことですので、ちょっと、あの……機密事項で。会社内のことは外部に話したらいけないって決まりがあるので……すみません」
「なんだ、きよがそういっていたのか。そうか、そうか」
さらに強く背をぱちんと叩き、国刺当主は百合の手から着替えの玉をひったくった。
「そら、そこに立て」
地面に放り投げられる着替えを目で追い、百合は貝の台座に立った。ヴィーナス誕生の絵画を思い出す。くだんの絵に描かれた貝よりも、百合が踏むものは巨大だった。
「貝は閉まる。開いたら終わっているから、勝手に戻ってこい」
「ごりょうさん、浄化ってどのくらいかかり――」
声が止まる。
視界が回転し、倒れていくかのように流れていった。
――倒れた?
百合は貝を寝床に、離れていく国刺当主たちの背中を見ていた。
瞬きができず、身動きもできなかった。
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