6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

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 貝の蓋が降りてくる。  閉じこめられることが怖くなったが、甘いミルクに似たかおりがして、緊張と恐怖感の捕縛が弱まった。  ――これ、なに。  貝の内側はよく磨かれ、鏡のようになっていた。  百合が映っている。  閉じられるまでの時間、そこに映る自分の呆然とした顔に気がついた。  ――なに、これ。  思考が続かなくなった。  貝が閉ざされ、闇になる。  なにも見えなくなったことに安堵した。  それが最後――鏡に映し出されていたのは、全身がバラバラになっていた自分の姿だった。
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