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どんどんちいさくなって消えてしまったらいい――連れ去られそうになったことがあるせいか、百合はそんなことを一瞬考えた。
「べつに近づいててもいいですよー!」
それでいいのかわからなかったが、百合が声をかけると、黒い絨毯がぶるりと波打った。
ゆっくり黒い絨毯は浮き上がる。無数にあったはずの首の数はみっつほどに減っていて、疲れた様子ながらも男の首は健在だ。
ゆるゆると近づいてくる首に、話しかけるともなく百合はつぶやいた。
「無事では……なさそうですね」
男の首が弱々しく笑う。
「ぬ、鵺の子が……いっしょに……お母さんのお手伝いしようって……さそ、ってくれた……み、みんなに会えて……うれしい……」
言葉をつむぎ、所々でふふ、と笑う声が混ざる。照れ笑いに聞こえた。
「さっきまで、もっと大きかったですよね」
「う……うん、そうね……うん……さっきがんばったら、無茶だったのね……契約違反も……しんどくて……」
「よくここに入れましたね」
「……すごく……大変……つらい……」
水塀を破るのは、けっこうな大仕事だろう――許しがないのだから。それができたのだから、もしかするとそれなりに強大なあやかしなのかもしれなかった。
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