6 枯れ屋敷 主たる名医が求めるものを

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 すでに木箱が安置されていた牛車のなかは、全員が乗りこむとひどく狭苦しくなった。  若返った清巳は、国刺当主から借りた帷子を身体に巻きつけ、上機嫌そうな顔をしている。 「これで当面、寝ても疲れの抜けない生活から離れられますね」  それが何度目の生まれ直しなのか、百合は気になったが尋ねるのはよしておいた。今日はこれ以上のややこしい情報は耳に入れたくない。  鹿野が百合のひざで身体をのばすと、ちょうど車が動きはじめる。  帰れるのだ――百合ははやくも長々と息を吐いていた。 「これから面倒だな。国刺と九重で一悶着あったのは、知れ渡るだろうから」  八咫が背中を壁に預け、だらしなく足を投げ出す。足が功巳に当たったが、両者ともに気にしていないようだ。 「八咫さんってごりょうさんと仲悪いんですか? ちょっと怖かったです」  八咫はもう幽玄はまとっていない。九泉香料のオフィスにただいるだけの八咫と一緒だ。 「あいつは薬の管理を民草にもさせたいんだ。現状は質のいいものは富裕層が独占、紛いものが貧民層に流れているから、それをどうにかしたいそうだ」 「え……」  それはどちらかというと、いいことなのではないだろうか。 「勘違いするな、それは俺も――俺の一族もおなじだ。だがやり方が合わず、あそことは揉めるようになった」
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