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終
新しくもらったにおい袋を部屋に置き、百合は夕方の町に出た。
目的地は駄菓子の自動販売機だ。
あやかしたちのためにある道というのは、その存在を知ってもよくわからなかった。
この近隣以外にも、古い町並みにはそういった道があるのかもしれない。
人知れず、あやかしたちが通り過ぎていく。
百合が歩を進める一帯で、怪談話がまことしやかに囁かれるということもなかった。過去も現在も、どこにでもある住宅街だ。
どこかの誰かが道を見つけ、あやかしと邂逅し、誰かに話したなら――そこから怪談話が広がっていくかもしれない。
まだ値引きのはじまっていないこまつ屋に寄り道し、夕飯用のコロッケとメンチカツを買い、それから百合は目的地に足を向けた。
日が落ちていき、通り過ぎる家々の表札も闇に沈んでいる。
勤務先の屋敷には相変わらず表札はなく、九泉香料や九重の文字はどこにもない。
それは表札がないから誰も住んでいない――そういう意思表明がはじまりだったらしい。
九重一族は元来人間だったが、気づくと生まれ直しをくり返すようになっていたそうだ。
――だから表札がないんだよ。
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