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 冥府から戻る廊下で、手持ち無沙汰ついでに功巳に話された内容に、とりあえずそれとこれは関係がないから表札をつけてほしい、と返すしかなかった。  あの様子なら、近日中になにかしらの表札をつけてくれそうだ。  におい袋をアパートに置いてきたおかげで、百合は自動販売機に囲まれた喫煙所に無事到着できた。  どこも停電しておらず、目を閉じ耳を澄ますと、かさかさこそこそとなにかが動く気配を感じ取れた。  目を開けると、辻に人影があった。 「おばさん」  たどり着き、そして会えた。  ほっとした声が出ていた。  におい袋を置いてきたが、もしかしたら染みついた香りで無理はないか、と考えていたのだ。前のものとかおりが違っていたから、功巳の処方が変わっているのかもしれない。 「お姉さんひさしぶりね、今日はなににするの? って催促みたいなこといっちゃいけないわねぇ」 「おばさん、私……この先、ここの駄菓子は食べられないんです」 「えっ」 「こちらの駄菓子は、私のためのものじゃないから」  おばさんの目が泳いだ。  じわりじわりと空気に染み入りながら、おばさんは百合のほうに近づいてきた。残像がわずかに残っている。
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