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 間近に現れたおばさんは、百合の顔を瞬きもせずじっと見つめてきた。 「おばさん、冥府の方のために、自動販売機を管理してるんですってね」  八咫が調べてきてくれた。  ただどれほどおばさんの自我に残っているか、そこはわからないらしい。  おなじ行動をくり返すだけの、執着を持った亡者に変じている可能性もあるという。管理に問題がなければ、そうなっていても取り沙汰されない。 「ああ、そうだ……そうだね、うん……そうだよ。あたしが売ってるのは、そうだ……」  ぶつぶつつぶやき、おばさんは百合から目を逸らした。  駄菓子を食べないと宣言した人間――生者の百合への興味を失ったのかもしれない。  自動販売機も喫煙所も、権利はおばさんの娘が継いでいた。近所には住んでおらず、掃除は業者が請け負っていた。  百合は自動販売機でお茶を買い、こまつ屋の袋から漂う油のかおりをかぎ、帰路につくことにした。 「そうだ、思い出した……そうだよ」  おばさんの声がして、百合は足を止めた。  振り返った闇のなか、にじみ出るようにおばさんの姿が揺らめいている。 「あんた、リリちゃんって呼ばれてた子だ」  それは小学校でのあだ名だった――事故に遭い、転校するまでの。  百合だから、リリー。
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