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そこで販売しているのは、駄菓子屋で販売している菓子そのものである。
「今日はどれにしようかな」
その自動販売機の前で百合は身をかがめ、くすんだガラス越しに商品を眺めた。
並んでいるものの種類はさほど多くない。おさない百合が買い求めていたときと、どれもデザインは変わっていなかった。
懐かしいパッケージのそれらは、百円――ワンコインで買えるようになっていた。
半月ほど前、このちいさな自動販売機を見つけた。それ以来ラインナップは変わっていない。
硬貨を投入してボタンを押すと、取り出し口に商品の落ちる軽い音が聞こえる。
百合が取り出したのは、お手製だろう、ビニール袋におなじ駄菓子がみっつ入っているものだ。
貨幣をかたどったチョコ菓子で、使用されている脂のせいか、すこし後味が重いものである。小学生まで虫歯の多かった百合は、母からチョコレートなど甘みの強いお菓子を禁じられていた。その反動か、現在つまみ食いの菓子を選ぶときには、チョコレート製品をよく選ぶようになっている。
ビニールを開き、ひとつを手に取る。
残りをカバンにしまった百合が振り返ると、そこに立つ人影があった。
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