ピロートークが長すぎるセフレに捕まった話

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ピロートークが長すぎるセフレに捕まった話

「ふふ、今日も最高だったよ。涙で目をうるうるさせながら『あっ…もう、出さないでぇっ』なんて言ってさ、出すに決まってるよねそんなの」 「……」 「それで奥に出したら嬉しそうに小刻みに震えるんだから、結局喜んでたよね。ほんと可愛い」 「……」 「今日もヤリ過ぎちゃったけど、身体大丈夫?いつもヒロムのこと見ると止まらなくなっちゃってさ」 こいつが話している通り、俺たちはさっきまでセックスしてた。だが俺たちが体を重ねるのはこれが初めてじゃない。 きっかけは半年前の春だった。出会ったきっかけは単純だ。いつものゲイバーで、一夜の相手を探していたらこいつが話しかけてきた。真っ黒なサラサラの髪に、垂れ目のイケメン。それもかなりの。良い体つきをしてるし、見ただけでわかる仕立てのいいスーツを着ていた。そいつは「イツキ」と名乗り俺を口説いた。 でもこの際正体なんてどうでもよかった。顔も好みだったから誘いにのって、ホテル行って、セックスした。イツキはかなり上手くて体の相性も良かったから、連絡先を渡してまた会ってもいいかな、なんて思っていたら一つ誤算があった。 イツキはピロートークがめちゃめちゃ長かったのだ。 最初はよく喋るやつだな、なんて思ってた。俺は精液を枯れるまで出したから当然賢者タイムに入ってたし、そもそも一夜の相手とボディランゲージ以外あまり話さない。今までの行きずりの相手やセフレと軽口を叩き合うことはあっても、恋人のように甘いピロートークをされることなんてなかった。だってセフレなんだし、必要ないじゃん。だがイツキはそうは思ってなかったようで初めてのセックスの後、一時間以上ピロートークを続けた。それも聞いてて恥ずかしくなるような、まるで恋人に囁くような、甘い甘いピロートークだった。最初のうちは長いと思いつつも面白がってテキトーに相槌を打って恋人ごっこに乗っかった。 だが2回目3回目となると話は別である。1回目以降もイツキは長い長いピロートークをかましてきた。ただのセフレ相手に毎回ピロートークはだるい。 「毎回毎回そのピロートークなんなんだよ。そういうのもういいから」 そう言うとイツキはキョトン、とした顔をしてから俺好みの甘い顔で微笑んだ。 「だってヒロムのこと愛してるから。セックス後に心配になる人多いから、ヒロムにはそんな思いさせたくないんだよ。身体だけじゃなくて、全てを愛してるって伝えるために必要だよ?というか俺もヒロムを甘やかしたいし」 あくまでも恋人ごっこをするイツキにあきれ返った。ここまでくるとこいつも役者だな、と思った。たまにいるんだよ、こういう恋人ごっこを演出して楽しむタイプのセフレ。過去にも1人いたけど、最後まで付き合ってるとこっちが疲れてくるのは経験済みだ。 身体の相性が今までのセフレの中で一番いいから、いくらピロートークが長くても我慢して会ってきた。だけどそろそろいい加減めんどくさい。こいつともそろそろ終わりかな、なんて思った。幸い俺は綺麗な女顔をしているらしく、次々と男が釣れる。ゲイだけじゃなく、ノンケもじゃんじゃん釣れるから「ノンケ食い」なんて異名もついてしまった。イツキもきっと本来はゲイじゃないはずだ。長年の経験から同類は匂いでなんとなくわかる。俺との関係を切ったところで、女からも男からも引く手数多だろう。あの身体を失うのは惜しいが、仕方ない。 「今までありがとう、お前とはもう会わない」 そんなメールを送って俺はイツキとのセフレ関係を解消した。それからイツキと会ったゲイバーにはもう行かなくなった。鉢合わせしたらめんどくさいからだ。ここ数ヶ月は二駅隣の少し離れたゲイバーに俺は最近入り浸っていた。案の定こちらから声をかけなくても、カウンターで酒を飲んでるだけで向こうから話しかけてくる。 「綺麗だね。今夜空いてる?」 ストレートすぎるお誘い。茶髪にピアスの男はグラスを持つ俺の手をスリスリと撫でた。でも一夜の相手ならこれで十分だ。ここ数ヶ月イツキに抱かれていないため、満足のいくセックスができていなかった。やはりイツキ以上に相性の良い相手はなかなか見つからない。それもあって俺はますますセックスにのめり込むようになっていった。こいつなら、俺を満足させてくれるかもしれないって。 「空いてるよ。身体が疼いて仕方ないんだ…」 そう言ってフラリともたれかかって見せる。すると男がクツリと喉の奥で笑ったのがわかった。 釣れた。 そのままゲイバーの外へ連れ出される。向かうのはもちろんすぐ近くのラブホテル。先を歩く男の後ろ姿を見ながらイツキのことを思い出した。あいつはもう少し背が高くて、筋肉がついてたな。それにこんな風に俺を強く引っ張って歩くこともなかった。いつも手を腰に添えてエスコートするように歩いた。 ぼんやりそんなことを考えていると、後ろから手を強く引っ張られる。振り返るとそこにはイツキがいた。 「だれ、そいつ」 イツキは見たことがないような凍てつく目を茶髪の男に向けていた。茶髪の男もイツキの迫力に明らかに怯んでいる。でも俺たちはもうセフレじゃない。こいつの恋人ごっこにはもううんざりなんだよ。 そう、本当はそんなこと思ってもないくせに、愛を毎晩囁いてくるお前が嫌いだった。本当に俺のことを愛してるかのようなお前のその瞳が嫌いだった。全てが嘘だと分かっていながら、お前に惹かれていく俺自身が嫌いだった。 これ以上好きになりたくなくて、本気で溺れるのが怖くて離れたのに、どうしてお前はそこにいるんだよ。 「…だれも何も、俺の今夜の相手」 突き放すように俺が言うと、イツキの目はますます険しくなった。あの長い長いピロートークからは想像もできないほど、威圧的なオーラを纏っている。 「は?どういうこと」 「どういうことも何も、俺はこれからこの人とセックスすんの!言わなきゃわかんないのかよ!」 俺が叫んだ瞬間、イツキは俺の腕を強く引っ張り反対側へ歩き出した。茶髪の男は呆然とした様子で、置いてけぼりである。 「おい、はなせ!どこ行くんだよ!」 イツキは何も言わずに歩き続けた。そのまま俺たちは地下駐車場に入り、いかにも高そうな高級車に乗せられる。俺の隣の後ろの席に座ったイツキは冷たい声で、運転手に声をかけた。 「出せ」 運転手は無言でアクセルを踏む。高級車は音もなく発進した。俺はこれからどこに連れて行かれるのだろうか。隣に座るイツキは怖くてとても聞けたもんじゃない。そもそもこんな高級車で運転手付きって、やはりイツキは相当金持ちなんだろうか…。何もわからないまま高級車は東京の街を縫うように走る。気がつくと高級住宅街のなかでも一際大きな家に着いていた。着くとイツキは無言で俺の手を引っ張り家の中に入る。ズンズン歩くと寝室につき、俺はベットに投げ込まれた。そのままイツキは俺の上に覆いかぶさる。 「やっと見つけたと思ったら、他の男に媚売って。俺のセックスはそんなに物足りなかった?」 「だって俺たちはもうセフレでもなんでもないんだから、俺がだれと寝てようとどうだって良いだろ…」 嘘、本当はお前以上にセックスが上手い奴を知らない。お前以上に俺に愛を囁いた奴もいない。でも今更そんなことは言えなかった。 「そもそも勝手にそっちが関係を解消しただけで、俺は納得してない。ヒロムを抱けないなんて耐えられない」 「っは、あんだけピロートークしといてやっぱ身体目当てじゃん。だったら俺じゃなくても良いだろ⁉︎イツキならセフレの1人や2人すぐ作れる!」 「だから、俺は本気でヒロムが好きなんだよ!なんでわからないんだよ!あのピロートークも全部本音で、でもヒロムが本気にしてないこともわかってた」 イツキはそう言うと顔を真っ赤にして俺を見つめた。俺はイツキの言葉にあっけにも取られる。 「おまえ、だってピロートークは演出で…」 「演出なんかじゃない。最初は確かに「ノンケ食い」っていう男なのに美人がいるって聞いて面白半分で声かけたんだ。それで実際に抱いたら本当に可愛くて…。手放したくなくて、必死に愛を囁いたよ。ヒロムが一夜限りの相手しか求めてないのは知ってたから、セフレとしてヒロムを最高に気持ちよくして身体から手に入れて、それでピロートークをした」 「……」 「でもヒロムは突然いなくなるから本当に焦った。だからここ数ヶ月はヒロムを探し回ったよ。そしたら案の定『ノンケ食い』の噂を聞いて、ヒロムの位置がわかった」 そう言ってイツキは俺の後孔を指でグッと押した。久しぶりのイツキの刺激に、思わず声が出る。 「ねぇ、俺と離れた間に何人の男をココに咥え込んだ?俺より上手かったやつはいた?俺に飼い慣らされたその身体で、満足できた?」 イツキが冷たく笑う。 「心もあと少しで手に入るかな、って思ってたけど誤算だったみたいだ。もう一度その身体に俺を思い出させてあげないとね。間違っても俺以外をもう二度と求めないように…」 「ヒッ…」 「ピロートークもたっぷりしてあげる。ああでもしばらく挿れっぱなしになるからピロートークなんてする時間がないかもしれないけど…その時は挿れながら愛を囁いてあげるから安心して。大丈夫、おれはどこにも行かないから…」 そう言ってイツキは俺が気絶しても抱き続けた。目が覚めても後孔に違和感を感じ、まさかと思って見たら案の定まだイツキのモノが入ってた。 ピロートークはまた、いやというほどたっぷり。 だが今度の俺はそのピロートークに素直に溺れた。こんな俺だってイツキに愛されたいのだ。もう元には戻れないことに気付いてしまったのだ。 俺たちが両思いだと発覚するのは、もう少し後のことである。 [後書き] ヒロム 普段は割と有名な大学に通う大学生。先輩に無理矢理奪われた過去があり、皮肉なことにそれ以来男同士のセックスに依存している。しかし見て見ぬ振りをしているだけで本当は心に傷を負ってたり、純愛を求めていたりする。 イツキ 大学生にして企業の立ち上げに成功し、かなりの収入を得ている。実はヒロムと同じ大学。最初は面白半分だったが次第に本気でヒロムを溺愛。無理矢理家に連れ込んで以来、ヒロム家に住まわせている。ヒロムは気が多いから自分を好きになってくれないと思い込んでいるため、両思いとわかるまで時間がかかる。
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