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ピロートークをしまってセフレを捕まえた話
「おいイツキ知ってるか?『ノンケ食い』ってやつ」
いつも絡んでる友人が大学の講義後に話しかけてきた。いつも大した話はしてこない軽いやつだ、きっと今回だってくだらない内容だろう。そう思ったがいつも絡んでいる馴染みがあるため、無碍にはできなかった。
「知らない。なにそれ」
至って興味なさそうに返事する。だがこいつは興奮した様子で話し続けた。
「この大学の最寄駅の二駅隣にあるバーにさ、すっげー美人がいるんだよ!」
「ふーん」
美人か。でも結局どんな美人だって俺の顔と、金を目にしたら一緒だ。目の色を変えて媚を売ってくる。健全な男子である俺にも性欲はあるし、後腐れのないセックスは好きだ。だがたまに割り切れないやつがいて、ストーカー化する。その時はさっさと切って、次の相手を探す。それだけだ。
ちょうど今のセフレが面倒になったから切ったところだ。相手が誰もいないから丁度良いか、なんて思った。
「で、その美人がいるバーの名前は?」
「オータムってバーだよ」
あれ?そのバーの名前って確か…?
「それって…」
「そう、ゲイバー」
「マジかお前。そっちの趣味があったのかよ」
ドン引きして見せると、そいつは慌てたように釈明する。
「先輩に誘われて興味本位で行っただけだって!どんな感じかなーって。いかにもって感じの奴もいるんだけど、ほとんどは普通の男でさ」
「で?」
「それでキョロキョロしてたら、カウンター席にすっごい美人がいたんだよ!黒髪で幼い可愛い顔立ちをした美人が!」
「…でもそれって男だろ?」
「そう思うだろ?だけどあの人はそこらの女よりよっぽど綺麗だぜ。話しかけてみたら、笑顔が妖艶のなんのって」
ダメだこいつ。すっかりのぼせ上がってやがる。
「もしかしてお前アタックしたのかよ?」
「…ちょっと我慢できなくてさ、今夜どうですかー?って言ったら綺麗に断られたよ…」
こいつは相当な女好きである。こいつもそこそこ顔が整っているため、噂になった女子は沢山いる。そんなこいつが誘う「男」ってどんな奴だよ。
「後で聞くとその人やっぱり色んな人から誘われてるみたいでさ。異性愛者、すなわち『ノンケ』でも惚れちゃうから『ノンケ食い』って異名で有名なんだと」
「で、お前はそのノンケ食いにフラれたと」
「顔がタイプじゃないって、バッサリ断られた」
少し興味が湧いてきた。今まで男なんて考えたこともなかったし、死んでもごめんだなんて思ってた。だけどこいつがここまで言うならその顔を拝んでみたい。
そう思った俺はその日の夜、早速バー・オータムに向かった。色々な遊びは経験してきたが、ゲイバーに行ったことはない。いささか緊張したが好奇心の方が勝った。入ってみるとあいつが言ったように一見普通のバーだった。だが俺はゲイバーを見にきたのではなく、「ノンケ食い」ってやつを見にきたんだ。
今日もいるだろうか。キョロキョロと辺りを見渡すと、それらしき人物がカウンターに座っていた。艶々の黒い髪、男にしては小柄なほっそりとした身体。後ろ姿だけでこの人に違いないと確信した。そっと近寄って隣へ行く。
「こんばんは。隣、いい?」
女受けが良い優しい笑みを浮かべて見せる。が、その人の顔を見て俺は衝撃を受けた。パッチリした目に、小ぶりな唇はふっくらとしたピンク色。スッと通った鼻筋といい、全てが可愛らしくて、美人で、そして何より色っぽかった。その人は俺の顔を見て「ふふ」と微笑む。
「かまわないよ。お兄さん初めてみる顔だね」
「…ああ、イツキっていうんだ。君は?」
「俺はヒロム。イツキは男に興味があるの?」
「ない…はずだったんだけどな。ヒロムを見てると不思議な気持ちになるんだ。この気持ちはなんだろうな?」
「さぁね、確かめてみる?」
そう言ってヒロムは小首を傾げた。やばい、その仕草は凶悪すぎる。これに落ちない男がいたらそいつは不能だろう。
「…今夜、確かめてみていい?」
「いいよ」
そのまま俺たちはバーを出て、近くのラブホにもつれ込んだ。俺もだけど、ヒロムも大分手慣れた仕草だった。これまで遊んできたことが十分窺い知れる。
なんだかモヤモヤして、抑え切れなくて、俺らしくもなく部屋に入るなりヒロムの唇を貪った。ヒロムは最初驚いたような反応をしたが、すぐに俺の舌に絡みつき返してくる。ピチャピチャと卑猥な音が室内に響いた。しばらくして唇がそっと離れ、2人の間を銀色の糸が結ぶ。
そこからはあっという間だった。ヒロムの後孔をほぐす時やけに柔らかいのが癪だったが、いちいち嫉妬していては仕方がないので目を瞑った。男を抱いたのは初めてだったが、前立腺というポイントがあることは知っていたので手探りで指を動かす。それらしきものを掠め、「あうっ!」というヒロムの嬌声が聞こえた時には俺の股間はギンギンに熱を持っていた。トロトロになって目を潤ませたヒロムはとにかく可愛かった。庇護欲をそそられると同時に、めちゃくちゃに犯してやりたくもなった。この淫靡な小悪魔の蕾を俺の肉棒で無理矢理こじ開けたら、どんな反応をするだろうか。奥の奥までガンガン突いて、白濁を溢れるほど注いでやりたい。そして孕むまで俺の肉棒でずっと栓をしてやりたい。
気がつくとどんどん凶悪な思考に陥り、実際俺はめちゃくちゃにヒロムを抱いた。思ったことをそのまま実行し、欲望のままに動いた。俺の肉棒で僅かにヒロムの腹が膨れていることに征服感を覚える。その膨らみを腹の上から軽く押すと、よほど気持ちよかったのかヒロムは空イキしながら背をのけぞらせた。可愛い可愛いヒロムを、自らの手で気持ちよくすることができて本当に嬉しかった。もっともっと気持ちよくなって欲しくて奥をトントンと一定のリズムで突く。ヒロムの後孔が、俺の形になってしまえばいいのに。他の奴に抱かれて欲しくない。一生俺の腕の中で啼いてほしい。俺だけを見てほしい。
欲望が募るほど情事は激しくなる。気がつくとヒロムは息絶え絶えになっていた。もっとヒロムの中にいたかったが、これ以上はやめたほうがいいだほう。名残惜しかったが、俺はズルリと肉棒を引き抜いた。ヒクヒクと余韻が残るヒロムの後孔からトロリと白濁が漏れる。その光景に仄暗い征服欲が満たされていくのがわかった。だがヒロムを怯えさせないよう、そんな感情はおくびにもださない。
「ごめんね、激しくしすぎちゃった。身体は大丈夫?」
「…くっ、ふふ。こんな激しいセックスは初めてだよ。ご無沙汰だったのか?」
案外ケロッとしたヒロムに呆気にとられる。
「…まあそんなとこ」
「でも気持ちよかったよ。イツキ、セックスうまいね」
そう言いながらヒロムはゆっくりと体を起こし、ベッドから降りようとする。まさか、もう帰ろうとしているのか。せっかく捕まえたのに。ここでヒロムを手放したら、他の男に抱かれに行くのか。そんなの絶対に嫌だ!
ヒロムを逃したくなくて、俺は咄嗟にヒロムの手を掴んだ。
「もう少し、俺と話さない?」
「…なんで?」
「余韻ってやつだよ。わからない?」
少し挑発的に言うと、ヒロムは俺のそばに戻ってきた。そのまま俺と向かい合わせになって寝転がる。
正直に認めよう。この時点で俺はヒロムにベタ惚れだった。好奇心だったものが、完全な恋心に変わってしまった。引き返そうと思えば引き返せたのに、ヒロムの目がそうさせてくれなかった。もう後戻りができないほどヒロムに惚れ込んでいた。なんとか俺のものにしたくて、俺はひたすら愛を囁いた。所謂ピロートークってやつだった。一夜の相手のピロートークなんて、誰も信じないだろう。だが情けないことに俺にはそれしかできなかった。
ヒロムも本気にはしていない。でも俺の言葉に時折頰を染めているのを見逃さなかった。全く効果がないわけではない。ヒロムが俺に落ちてくれるのを信じて、その後も俺はピロートークをし続けた。最初は笑って受け流すことが多かったが、最近は僅かに頬を赤くして俺の言葉を聞いている。「やめろ、小っ恥ずかしい」と言われても、もはや照れ隠しにしか見えないほどだった。いける、あと少しでヒロムは落ちる。ヒロムの心が手に入るのはそう遠くない。ヒロムが俺のことを好きになってくれたら、俺の家で2人で暮らそう。なんの不自由もない生活を、俺ならヒロムにさせてあげることができる。朝共に起きて、昼は穏やかな時間を分かち合い、夜は激しく、そしてまた朝を迎えよう。
そう思っていた時だった。
「今までありがとう、お前とはもう合わない」
ヒロムから俺を拒絶する一通のメールが届いた。現実を受け止め切れなかった。どうして、なんで。
最近のヒロムは、俺以外に抱かれていなかった。それはわかっている。その事実がたまらなく嬉しかったし、俺を愛してくれているのだと思った。だが違ったのか。
訳がわからなかった。君を抱けば抱くほど俺は君に溺れていくのに、君はそうじゃなかったのか?諦め切れる訳がなく、俺はヒロムを探し回った。オータムにヒロムが姿を表すことはなかった。
それでも諦めずに時間があれば探した。経営している会社の部下にヒロムのことを探させ、ついにオータムから二駅離れたゲイバーでヒロムの目撃情報を手にした。
「どうもかなり夜遊びが激しくなっているみたいです。そのせいであの辺りでも噂になってるとか…」
「もういい」
部下の報告を切り捨てる。せっかく調べてくれたのに申し訳ないとは思ったが、ヒロムが他の男に抱かれてる情報なんて聞きたくなかった。
「今夜、迎えに行く。いつもの駐車場で待機してくれ」
「承知いたしました。失礼します」
報告書に同封された写真を見る。そこには知らない男に手を引かれ、ラブホに入るヒロムの姿があった。
今こうしている間にも、ヒロムは誰かと寝ているのかもしれない。そのことが許せなくて、その日の仕事が終わったらすぐに例のゲイバーの側に向かった。近くを張っていると、案の定ヒロムが知らない男とゲイバーから出てくる。強引に手を引かれて、ヒロムはついていくのがやっとのように見えた。進行方向の先にあるのは、分かりやすくて下品な安いラブホテル。もう我慢できなかった。
そばに寄って後ろからヒロムの腕を掴む。
「だれ、そいつ」
ヒロムが目を見開く。ヒロムの腕を引いていた茶髪の男を睨みつけると、そいつはすぐに怯んだ。だがヒロムは俺が現れても開き直ったように言葉を発す。
「…だれも何も、俺の今夜の相手」
「は?どういうこと」
「どういうことも何も、俺はこれからこの人とセックスすんの!言わなきゃわかんないのかよ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かがキレた。もうダメだ、ヒロムを早く連れてかなきゃ。俺の巣に閉じ込めなきゃ。そんな思考に支配される。
ヒロムを茶髪の男から引き離して、部下を待機させている地下駐車場に向かう。
「おい、はなせ!どこ行くんだよ!」
ヒロムが抵抗したが無視した。だって、この腕を離したらヒロムはまた逃げるから。
地下駐車場の車にヒロムを無理矢理乗せ、俺も隣に座った。
「出せ」
部下に言うと車が静かに発進する。それからすぐに家につき、ヒロムを寝室のベッドに投げ込み、俺の両腕でシーツに縫い付けた。
そして再び愛を囁く。きっとヒロムはまた信じてくれない。でもヒロムはこんなに可愛いし、美人だから仕方がない。俺なんかに簡単に振り向いてくれると思ったら勘違いだったみたいだ。でも大丈夫、また一から愛し合えばいい。俺がいかに愛してるか、分かってくれるまでこの家から出さないから。まずは俺の身体を思い出して。
「すき、すき、かわいい、あいしてる」
ヒロムの奥を突きながら愛を囁く。狂ってるって言われてもいい。君が俺だけを見てくれるなら。
ひたすら抱き潰して、ヒロムは眠ってしまった。横たわるヒロムを抱き上げて風呂場に連れて行き、後孔の白濁を掻き出す。出しても出しても、止めどなく溢れてくる白濁に自嘲した。ヒロムの全身に噛み跡やキスマークが散乱し、見るにも痛々しい。
こんなはずじゃ、なかったんだけどな。
もっと溶けるまで優しく抱いて、甘いピロートークをして、段々好きになってもらおうと思ったのに。誰よりも優しくしたかったのに。可憐な一輪の花を、俺自身の手で手酷く折ってしまった気分だった。
訳もわからず涙が溢れる。
「ごめんね…ヒロム」
俺の口から溢れた贖罪は、誰にも届かなかった。
[後書き]
イツキ
ヒロムが逃げたことでヤンデレ化してしまった人。誰よりもヒロムを愛しているはずなのに、ヒロムのことが信じられなくなってしまう。本当は両思いなのに大分拗れそう。ヒロムが逃げなかったら、もっと早く丸く収まってた。
ヒロム
傷つくのが怖くてイツキから逃げてしまい、結果選択を誤った人。イツキの家に閉じ込められた後、何度も告白を試みるが信じてもらえない。だが自業自得だと受け入れ、イツキに信じてもらえるまで両片思い状態で抱かれ続ける可哀想な人。
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