百合

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 小町さんの小言をこんなにもうまく聞き流せたことがあっただろうかと、今までにないくらい強く思った。そもそも、単純に話を聞こうとしていないだけなのかもしれないけれど、どちらにせよ、いつもなら気が重く感じられるようなことも、羽のようにふわふわと軽い。もしかすると、黒木さんに会ってから、自分の許容範囲が知らず知らずのうちに大きくなったのかもしれない。と、黒木さんと一緒にお昼ご飯を食べた日の晩、小町さんに興奮気味で話すと、察してほしいと言わんばかりのとびきりの笑顔が返ってきた。あの笑顔は、間違いなく同調ではない、今までに何度も見たことのあるそれだった。  黒木さんとの距離が縮まったわけでもなければ、彼が私のことをどう思っているかも分からないけれど、彼のことを想うだけで、胸が張り裂けそうだった。  今日も、黒木さんが好きだと言った「中途半端な空」を、出窓に座って眺め、彼のことを想う。鬱々しそうな空なのに、彼が好きだからという理由が私にとっては大きな付加価値だった。重苦しい雰囲気はひとつも感じられない。それどころか、柔らかくて淡いピンク色に包まれているような気分だった。 「お嬢様っ!」  部屋の外から小町さんに呼ばれ、驚いて顔を上げた瞬間、後ろの壁に頭をぶつけた。途端に淡いピンク色は一瞬で目の前から消えてなくなった。  頭をさすりながら「どうぞ」と言うと、「失礼します」の声と同時に部屋に入ってきた。私を見るなりほんの少し首をかしげると、大股に近寄ってきた。 「頭をどうかされたのですか?」 「えっ、ああ、ちょっとぶつけちゃって。でも、もう大丈夫だから」 「本当ですか?」  うなずきながらソファーへ移動する。 「ちなみになんだけど、今、ノックしてた?」 「ええ、もちろんです。何度かさせて頂きました」 「そう、だったの。ごめん、考え事してて全然気付かなかった」
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