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そんなことを考えながら、見るともなく眺めていると、後ろで扉が開く音がして体ごと振り向いた。
扉から顔を出したのは黒木さんだ。彼は、目が合うなり微笑んだ。
「待たせましたか?」
言葉とは裏腹に、その声はとても柔らかいものだった。
「いえ、全然待ってませんよ」
「それなら良かった」
言いながら私の隣に腰を下ろすと、膝の上で抱えているお弁当を見て笑顔になった。
「これ、約束のお弁当です」
「それじゃあ俺も──」
ビニール袋からペットボトルのお茶を取り出し、私の目の前にどうぞと言って差し出してくれた。わざわざ私のために、そう思った瞬間、嬉しくて動揺してしまった。こんなことでと思えることが、私には十分過ぎる。
両手で受け取り、お礼を言ったものの、黒木さんの顔をまともに見れなかった。
「お弁当、開けてもいいですか?」
「は、はい」
ランチクロスを広げる彼の手元を緊張しながら見ていた。お弁当箱のふたを開けるなり、分かりやすく目をキラキラさせた。
「すごいね!」
「あ、ありがとうございます」
「これ全部如月さんが作ってくれたんですか?」
「はい……」
「本当にすごいです。さっそく食べてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
彼の大きな一口に、思わず頬が緩む。
「うん、美味しい!」
「本当ですか?」
「うん、本当に美味しいです。俺、タマゴサンド好きなんですよね」
「そうなんですね。お口に合って良かったです」
口いっぱい頬張る姿を横目で見ながら、それだけで幸せだと思った。それだけで、正直お腹いっぱいだった。
「コーヒーの方が良かったですね」
食べる姿に見とれていて、一瞬何を言われたのか分からなかった。
「サンドイッチには、お茶よりもコーヒーの方が良かったかなって」
「あ、いえ、そんな……」
うまく答えられずにいると、顔を下から覗きこむようにしてふっと笑うから、体ごとよじれてしまうのではないかと思うほど胸が締めつけられる。
「そんなに緊張しないでくださいよ」
「そ、それは、無理です……」
「それじゃあ、敬語で話すのやめませんか?」
「……それも、無理です」
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