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まさか淡いピンク色に包まれていたとは言えず、適当な笑顔を張り付けて彼女をちらりと見る。
「それで、どうしたの?」
「来月のお嬢様のお誕生日パーティーの件なのですが、ご希望通りキャンセルさせて頂きました」
「本当に? お父さんとおじいちゃん怒ってなかった?」
「ええ、お二人とも怒ってらっしゃいませんでしたよ。ただ、大旦那様に限っては、子供のように駄々をこねてらっしゃいました。もちろん、なんとかうまく言っておきましたので大丈夫ですが、会いたいと何度もおっしゃられていました。ですので──」
小町さんが続きを話すより先に立ち上がり、「小町さんありがとう!」、言いながら彼女に抱きついた。
「恋は盲目とは言いますが、そういった方を目の当たりにしたのは初めてです」
「だって、黒木さんと同じ誕生日なんだよ。これって奇跡だと思わない!? 一緒に誕生日をお祝いしたいじゃない」
可愛らしく語尾をはねあげると、感情のない「そうですね」が返ってきた。それを面白がって笑うと、仕方ないと言った表情に変わった。
「とにかく、旦那様と大旦那様には必ず連絡して下さい。特に大旦那様にはいつも以上に優しくお話されて下さいね。本当の理由は決しておっしゃってはいけません。ですので、わがままを言って話を反らすなどして下さい」
「わがまま?」
「そうです。誕生日プレゼントにほしい物があるとかなんとか、とにかくそういう類いのことです」
「なるほど」
言いながらうなずいてみる。
「それよりおじいちゃんって今どこにいるんだっけ?」
「今は確か、イタリアのフィレンツェあたりに滞在されてらっしゃるはずです」
「そっか。それじゃあ、誕生日プレゼント考えとくね」
「それで、お嬢様はお誕生日をどのように過ごされるのかもう決めてらっしゃるのですか?」
頭の痛い質問に、自然と低い唸り声がもれた。
そろそろとソファーの上で膝を抱える。私の反応を見た小町さんは、短く息を吐くなり持っていたタブレットで何やら調べ始めた。
それからどれくらいの時間小町さんと話していたのだろう。気付けば庭の外灯が灯り、部屋の中を薄暗く照らしていた。
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