16人が本棚に入れています
本棚に追加
難題だらけではあるけれど、とりあえずは約束を取り付けられたことに心の底からほっとした。
もちろん予想はしていたけれど、サンドイッチの時よりも手渡された資料がはるかに分厚い。ここまでくると、さすがに何も言えなくなる。
背筋をすっと伸ばし、見るからに気持ちばかりが前のめりになっている小町さんは、いつにも増して気合いの入りようが違って見えた。だから、サンドイッチの時のように、要点だけを教えてほしいなどとは、とてもではないけれど言えそうになかった。
今回は、一文字も飛ばすことなく全てに目を通した。途中、何度か本来の目的を見失いそうになったけれど、そんな時は、黒木さんの優しい笑顔を思い出してなんとか乗り切った。
「──ケーキの説明につきましては以上となります。何かご質問などございますか?」
姿勢を正し、ひと息つく暇もなくとびきりの笑顔を向けられた。
「いえ、十分すぎる説明だったので、大丈夫です」
「そうですか。それでは続いて、ショートケーキについてさらに詳しく説明させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
あからさまに顔に出てしまった。これはもはや、拒否反応に近い。
「こ、小町さん。せっかくだけど、その、できれば実践に移りたいんだけど、どうかな?」
彼女の努力はもちろんありがたく受け取り、決して無駄なんかではないと、言葉ではなく笑顔で伝える。それが、伝わっているかどうかは本人にしか分からないけれど、いや、伝わらなければ困る。
「そうですね。それでは、調理器具などについては後ほど説明させて頂きます。私は準備に取りかかりますので、お嬢様はしばらくお部屋でお待ちくださいませ」
言われた通り部屋に戻り、ソファーにどっかりと腰をかけた。小町さんにならってずっと背筋を伸ばしたまま椅子に座っていたものだら、背中の真ん中あたりが痛くてたまらない。
大きく伸びをしてから、だらしなく横になった。
「──黒木さん、喜んでくれるかな」
誰にともなく呟いた声に、自分で言っておきながら恥ずかしくなる。
しばらくして、ノックの音に体を起こした。
小町さんに呼ばれ、彼女のあとについていく。
キッチンの中に入ると、テーブルの上にはケーキ作りに必要であろう食材がずらりと並んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!