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茉由には
この一週間は、辛い毎日だった。
―
「ちょっと!茉由、
私たちに内緒にしてる事、
有ったでしょ!」
昼の休憩時間、今日も、リフレッシュしたい
三人は外に出て、短い時間での食事中、梨沙
の口は、早々と出てきたサンドウィッチでモ
ゴモゴしながらも、言いたい事は云う。
「なに?いきなり?
なにも内緒に…」
途中で茉由は、考えた、…いっぱい、ありす
ぎるから…
それは…ずいぶんと前の、まだ、茉由が関西
に往く前の頃、咲の部屋で行われ「三人会」
依頼、茉由は、高井との事を、二人には、何
も報告していないし、
関西では、佐藤が、頻繁に茉由の家を訪れて、
家族ぐるみで生活を共にしていた事も、未だ
報告していないし… 夫の昇進の事もあるし
「梨沙?チャンと云って?
私、分からない」
茉由は仕方なく梨沙に話を戻してみる。
「翔太の事、この間から、
なんか、怪しいって思って
いたけど、茉由、関西で、
なに?家族ぐるみの付き合い?
してたんだって?」
「えっ?」
梨沙が、もう、佐藤との事を知っているのに
は驚いたが、これは… どこまで、知ってい
るのかが、まだ、分からずに、茉由は、梨沙
の顔色をうかがう。
「そうなの?」
咲は、営業部の佐々木が夫なのだから、梨沙
よりも、営業部の事は分かっていると思った
けれど、この事は、知らなかったのか、トボ
ケテいるのか…知らないカンジを出した。
「うん! 同期だし…、
関西では、お互い、
周りに知り合いが
いなかったから、
なんだか、助け合い?
みたいな感じで…」
茉由は当たり障りのない様に言い訳してみる。
「そうだったんだぁ…
でも、翔太にとっては、
茉由の家族との付き合いは、
やっぱり、茉由を大事に
思っているからで、それ、
同期って事だけかな?
男って事じゃない?」
梨沙は、茉由の返事を聞いていないのか、早
い展開で、話しを進めてくる。
やっぱり、前回、咲の「大事」を聴くだけで
終わってしまった事を、少し、後悔している
のか、それとも、ただ、短いlunch の時間
が気になるのか…
「そう…
思われちゃうのかな?
私は… やっぱり、
『同期として』だと
思っていたし…」
「関西は、結局、
半年ほどの、短い赴任、
だったでしょ… でも、
たしかに、むこうでは、
私、仕事が終わると、
母から頼まれれば、
母の買い物を、
翔太と一緒にしてから、
車で送ってもらっって、
帰宅したり…」
「そのまま、翔太は、
私の家族と一緒に食事
したり… したけど、
翔太と二人だで、
何かをしたことないし、
どこかに往ったりして
いないし… あっ!」
「なに?」
茉由が、話しに詰まったので、咲が突っ込む、
「うん…
何でもない」
茉由は話しながら、一瞬、高井が頭の中に出
てきた。佐藤とは、二人だけ、で、どこかに
往った事はないけれど、高井とは、横浜や、
三浦半島や、吉祥寺に往った事があるので、
佐藤の話をしているのに、自分で言った言葉
なのに、「二人だけ」で、一瞬、高井が、頭
の中に出てきた。
「でも、なんで、
梨沙は…、
知っているの?」
茉由は、何も話してはいなかったのに、
梨沙が、なぜか、佐藤の事を知っているのは、
不思議だった。
「うん、この前、翔太が、
茉由の、
親知らずを心配して、
咲のスマホにメッセージ
入れた事、あったじゃん、
なんで、咲に、って、
思ったんだけど、
私のスマホにも、
翔太が入れてきて…」
梨沙は、スマホのメッセージを茉由に見せた。
『茉由は、
仕事が終わると
誰と帰っている?』
「ね?だって!」
梨沙は、少し冷めた表情で茉由に佐藤からの
メッセージを圧しつける
「私と茉由は、途中まで、
方向が同じだし、
一緒に帰っていると
思たのかな?
でも、分からないから、
電話したら…」
「そしたら、『関西では、
自分が、茉由を送っていたから、
茉由は、独りで、
通勤電車で帰れるか心配だ』って
云うから、『子供じゃないし』って、
突っ込んでみたけど」
「それでも
『だって、あの、茉由だぞ!』って、
かなり、大げさに心配してるし、
だから、私が知らない、関西で、
なにか、あったの?かなって、
思って」
「そうなの?
でも…」
茉由は困惑する。親知らずの心配の時は咲き
で…、通勤の件は梨沙で…、この間の電話で
も佐藤は自分の云いたい事だけ言ってくるし、
…なんで…
茉由は首をかしげる…
「なんで…、
咲と梨沙にまで…」
「それって…、かなり、
マジで、茉由の事
心配してるんじゃない…、
私と、梨沙に、
茉由の事、護らせようと、
してるんじゃない?」
「……」
...翔太は、
私のことを…
茉由は、佐藤との電話の事を話すかどうか迷
う。べつに、二人に内緒にするつもりじゃな
いけれど、佐藤が茉由に干渉しすぎるのが気
に障る内容だったし、
それをいま、ここで言ったら、余計に、この
二人は、佐藤の気持ちに同情しそうな気がす
るし、
この二人が、茉由じゃなくて、佐藤寄りにな
るのは、茉由には嫌だった。
茉由が頼もしいと思っていた佐々木は、意外
にも、このところ、自分の母親と、妻の咲の
間に入る事から逃げて、皆から離れていて、
高井は、茉由に、突き放すようなことを云っ
てきたし、
茉由の母親は、義理の息子の教授昇進に舞い
上がっているし、
いまの茉由には、この二人しか、味方が居な
いのだから…
咲と梨沙は、
関西での茉由と佐藤の事は離れていたから、
実際には分からなくても、関西の佐藤が、ワ
ザワザ、もう、自分の近くから離れた、茉由
の事で連絡をしてくるのだから、茉由の事を
同期以上に思っているだろう、との事は、咲
も梨沙も分かっていた。
―
佐藤は、茉由を追いかけて関西へ入り、
「茉由を護る」ようになる。
お母さんとしても、頑張る茉由を、
「護る」
茉由は、家族を巻き込んで、
夫から、
逃げてきたことを、すごく申し訳な
いと思っていて、関西では、
自宅に戻ると、大袈裟に、子供た
ちとのスキンシップをとるように
していたが、
それでも、
「これで大丈夫かなぁ?」
と、不安は拭えなかった。
けれど、佐藤が、良いように空気
を換えてくれた。 ―
茉由は、短い間の事として咲と梨沙に話した
が、数か月でも、茉由の身近な誰よりも、佐
藤は本気で、茉由と、茉由の子供と母を守っ
ていた。
「でもさぁ?
茉由のあの旦那なら、
翔太の方がヨクナイ?」
梨沙は、本気で言っているのか分からない、
lunchの短い時間を気にして、無理やり纏め
ようとする?
「……」
茉由は、もう、頭の中がグジャグジャで
返事ができない。
―
「茉由の病気」
梨沙は、茉由の夫が、茉由の事を強く管理し、
制裁を加えていることを知っているから、茉
由の事を考えてそう云ったのかもしれないが、
茉由は、
関西から戻って、佐藤との距離ができると、
こちらでの「事」、それは、
新しく就いた仕事の事、高井の事、家族の事、
夫の事、で、イッパイになっていた。
だから、佐藤の思いには…
「でも…なんか…翔太...
不器用で、
かわいそうじゃない?」
咲は、茉由を前にしては、
云い難い事を言った。
「私も、翔太が
かわいそうだと思うよ、
こんなに、茉由のこと
思っているのに…」
梨沙も、完全に、佐藤寄りのことを云う。
「……」
茉由は、たとえ仲の良い咲と梨沙から、自分
が心配をされて云われたことでも、佐藤を、
同期以上には考えられないし、このところ、
いろいろ、いっぺんに分からない事が増えて
きて、自分は混乱していているのに、ここで
この話を、もう、これ以上されたくはない。
「どうして?
思われたら、
思ってあげなきゃ
いけないの?」
ついに…
茉由は乱暴に言い放ってしまった。
茉由は、この場の雰囲気が辛くなり、
逃げたかったのかもしれない…
でも、これに二人は…
「ちょっと、それ、ムカツク!」梨沙は怒り、
「ちょっと、酷いね」咲も怒った。
「……」
茉由は、もう、なんだか、居た堪れなくなっ
て、眼が合わせられない二人から離れようと、
ガタン!っと、勢いをつけて席をたち、先に
店を出てしまった。 ―
絶対的な見方の、咲と梨沙を怒らせてしまっ
た茉由は、独りぼっちになった事に傷つき、
放心状態だった。毎日、ちゃんと、仕事には
出ても、気持ちも切り替えられずに、力も出
ない。
仕事中、staffたちの前に居ても、存在感は
なく、静かに腰かけているだけで、ここでの
業務は、主任のマリンに、全て、任せたまま、
ただ、座り続けた。それでも、ここの長とし
て、気を遣ってもらえる茉由は、誰にも咎め
られる事もなく、毎日が過ぎていく、
高井は、自分の仕事が忙しいのか、それとも、
先日の、夜桜デートの別れ際に、茉由に言い
放った、
―
「あぁ…、おまえ…、
いいかげん、大人になれよ…」 ―
の、言葉のせいで、茉由がこんなになってい
るように、監視cameraを通して視えている
のか、
こんな状態の茉由にも、何もせずに、静観?
していた。それに、いつものように、仕事終
わりにも、茉由を迎えに来ることはなかった。
「もう一週間…
経っちゃった…」
茉由は、ふと、自分のdeskに腰かけたまま
呟いた。
この一週間は、
長かったのか、
短かったのか、でも…
茉由はやっぱり、
嫌だった。
「やっぱり…好き」
とうとう茉由は、自分の気持ちを伝えようと、
本社から近い咲の処を仕事帰りに訪れた。
上手くできる自信はないけれど、大切な咲と
梨沙に、ちゃんと、謝りたかった。
茉由は、咲と事前に約束はしていなかったが、
メインエントランスの、インターホンから、
咲の部屋を呼び出した。すると、意外にも、
あの、一大事に、ゼンゼン捕まらなかった、
佐々木の声が聴こえた。
「茉由?どうした?」
「えっ?駿なの?」
この、インターホンには、cameraもついて
いる。佐々木は、茉由に気づいた。
茉由は驚く。同期の佐々木は、このところ、
誰が連絡をとっても音信不通で、行方が分か
らなかったのに、どうして…、
ここに居たの?なんだか、あまりにも、
不意討ちだった。
「あー、どうした?
まぁ…、いいや、入って!」
佐々木も、突然の茉由の訪問に驚いた、
「うん…」
茉由は、佐々木の声にも驚いたが、咲の部屋
なのに、佐々木しか対応しないのにも、少し
動揺しながら、咲の部屋に向かう。
自分の気持ちを伝えようとするだけでも、ま
だ、茉由は混乱しているのに、意外な、佐々
木の登場で、茉由はますます、動揺する。
ピンポン!
「こんにちは…」
茉由は咲の部屋の前から、ドア横のインター
ホンに声をかける。
「 おう!久しぶり!」
出迎えたのは、やっぱり、佐々木だった。
でも…
「ちょっと! 茉由~、
キイテヨォ~‼」
凄まじいハリのある声が、マンションの廊下
にも響いた。佐々木は、その咲の声に焦り、
ボォ~ッとしている、茉由の腕をグイッ!と
つかみ、部屋に引っ張り込むと、騒音を遮断
する様に、玄関ドアを力任せにバタン!っと
閉めた。
「ど、どうしたの?
なんで? 二人?」
茉由は、(・・? )
ハテナマークが続いた。
「良いから!
聞いて‼ハヤク!」
咲は、Σ(・□・;)
ビックリマークが続いた。
まだ、茉由は、靴を脱いでいないのに、咲は
佐々木の前に割り込み、茉由の腕を引っ張る。
茉由は、慌てて、靴を脱ぎ、リビングまで、
引き摺られるように進んだ。咲は、茉由を、
ソファに落とす。
「信じられないでしょ!
駿ったら、ここに、
入り込んで、自分の処に
還らないの!」
「あー、しょうがないだろ!
お袋が居るんだから…」
「なんでよ!」
「知らねえよ!」
「ちょっと…」
目の前のバトルに、茉由は目をパチクリとし、
呆れた。茉由が訪れた事には、なにも、この
二人は触れてくれない。
…えぇ~、私はここに、
なにしに来たの?…
茉由は、ソファに座らされたが、居心地はワ
ルイ。気づくと、両手で耳をふさいで、眼だ
け動かし、この二人の様子を傍観していた。
「茉由!聞いてるの?
耳ふさがないでよ!」
「あっ!ごめんなさい…」
...咲、凄すぎるよ…
「あー、よせよ!
怖がってるだろ!」
「怖くないわよ!
ねぇ? 茉由!」
「うん…」
...怖いです…
「あー、ごめんな!
咲、凄いだろ?
だから、嫌だったんだ!」
「なにそれ!」
「……」
...誰か助けて…
咲は興奮したまま、来たばかりの茉由を巻き
込む。
茉由は、降参のポーズの様に、胸の前で、掌
を拡げてみせて、耳は塞いでいない事をアピ
ールした。
「大丈夫か?
茉由…」
佐々木は茉由を心配しつつ、咲の激高ブリに
お手上げ感を出し、茉由に同情してほしそう
に目配せをする。
「うん…」
「もう! いいわよ!
梨沙を呼ぶから!」
咲は、佐々木が茉由を味方につけようとして
いることに気づく、
「えっ?
梨沙を呼ぶの?」
茉由は、意外な展開に少し驚いたが、もう、
皆、集まった方が良いのかもしれないとも思
った。この二人の前に、自分が居ても、何も
役に立てないから…
「うん、そう!」
「あー、だったら、早く呼べよ!
めんどくせーな!」
「呼んだわよ!
もう‼」
咲はスマホを高く掲げて、佐々木の前に、
仁王立ちになる。佐々木は、胸を張り、
咲の前に、壁を創るように立った。
ファイティングポーズをしていなくても、
この二人の間に、タオルを投げ込みたい
茉由だった。
「えぇ…」
…帰ろうかな…
茉由は、静かにあと退りしながら、少しずつ、
後退していく…、リビングのドアのところま
で来ると、いつでも、外に逃れられるように、
ドアに手を掛けたままだった。
茉由は来たばかりなのに気の毒だが、でも、
本当に、役に立たない。
三人は、梨沙が到着するまで、この立ち位置
を守っていた。
「ちょっとー、なに?駿、
来たんだってー!」
梨沙は、大きなバッグをドサッ!と、おろす
と、玄関でスニーカーの紐をほどきながら、
リビングにまでも聞こえる大声で云った。
まだ仕事中で忙しいのに、迷惑!な、カンジ
を出している。
「来ただけじゃないわよ、
ここに、ずっと
居る気なんだってば!」
咲は、急に呼び出した梨沙に詫びることなく、
自分の言いたい事を圧しつけた。
「あー、だから…、
仕方ないだろ!」
梨沙の登場で不利になると思ったのか、少し、
抑えた感じで言い返す佐々木。
「……」
…ハァー、やっと、
梨沙、来てくれた…
茉由だけは、ここに居てもスッカリ、置いて
いかれる。ここで、空気?になっている。
一週間ぶりの同期達は、茉由の落ち込んでい
た一週間を知らないし、知ろうともしない。
皆、それどころじゃない…
「ねぇ…、みんな、
座った方が…」
…そう、だよね…
咲の部屋に自分もお邪魔しているのに、茉由
はとりあえず、言ってみた。
「うん!そうそうー、
私は、ちょっと、飲み物
もらうねー!すげぇー、
暑かったからさぁー」
梨沙は、「急いで来てあげました!」
アピールで、誰からの返事を待つこともな
く、調子よく、サッサと冷蔵庫を開けて、
ビール缶を取り出した。
冷蔵庫の中には、べつに、飲み物はビール
だけではないのに、他の飲み物は、
都合よく、見ないようにする。
梨沙は、長くなりそうだから、と、判断した
のか、「外では酒を飲むな!」と上司からは
云われているのに、これは…、怒られない様
に、今日はもう、直帰するつもりなのかもし
れない。
「うん、善いよ、
梨沙、
今日泊ってく?」
咲も、長期戦を予測し、梨沙を巻き込もうと
する。
「なんでよ!帰るに
決まってるじゃん、
早く、二人とも云いたいこと
出し切ってよ、
ちゃんと聞くから!それに、
ねぇ、茉由だって居るじゃん、
ここには…」
梨沙は何気に、茉由の事を出し、自分の負担
を少なくしようとする。それに…、梨沙は、
茉由の事は、もう、怒っていないようにも見
える、
茉由は、こんなにスゴイ修羅場なのに、咲と
梨沙が、以前の様に、何事もなかったかの様
に、茉由に接してくるので、まだ、二人にち
ゃんと謝っていないのに、少し、ホッとする。
「うん、私も聴くよ、
チャント!」
茉由も頑張って参加した。
「あー、
めんどくせー」
佐々木は、ドカッ!と、リビングのソファに
身体を投げ出した。男一人で、もう、佐々木
には負けが見えたようだった。
ビール缶を一つ空にした梨沙が、咲ではなく
佐々木に話しかけた。
「駿、今まで、
どうしてたの?
連絡つかなかったじゃん」
「あー、お袋が急にきて、
帰らないから、
説得してたんだけど…」
佐々木は、両手で髪をグジャグジャに
しながら、
ムシャクシャした自分の気持ちを出した。
佐々木の部屋に母親が来たのは、本当に突然
で、佐々木は、困惑したようだ。それも、
いつも説得力に優れ、すぐに、結果を出せる
佐々木でも、それをどうしようもなく、
あの、気の強い、弁が立つ、佐々木の母が
「帰らない」とは、穏やかではない。
咲は眼を閉じて、眉をピクピクさせ、もう、
黙ってはいるが、腕組みしたまま、ふー!
っと、鼻息を響かせている。まだ、かなり、
アツイ。
咲は賢いが、どちらかといえば、頭でっかち
で、行動力のある、会話術にたけている、
佐々木や、佐々木の母のようにはいかない、
だから、
佐々木が、あの母を、どうしようもなく、放
置したままなのには、モヤモヤ感が強くなる。
咲には、あの義母は異星人で、考えれば考え
るほど悪循環で、
もう、スマートな、理知的な、
いつもの咲ではない、それに、いま、
きっと、先日の、この部屋での、オゾマシイ
光景が咲の頭の中に出てきているのだろう。
その、噂の佐々木の母は、
咲を?別居婚を?認めない?…
だから…
あの日…、
―
ガ〰!っとスーツケースを引きずりながら、
ズンズン!っと、新潟から真っすぐに、東京
駅に来て、か、ら、taxiに乗って…、
ドライバーさんには、事前に、東京駅から、
その時間帯の道路状況も下調べした、最短時
間で、最短距離を考えたルートを、mapを
見せながら説明し、
咲の住むマンションまで、迷うことなく、体
力も十分に残したまま、無事に到着し、戦闘
モードマックスに、のりこんできた。
もぉ~!すでに、かなり出来上がっていて、
『怖い‼』
「こんにちは、お邪魔しますぅ…、
あら?いけない、
『初めまして‼』でしたわねぇ~」
開口一番の、先制攻撃!
咲は、佐々木の母の「大荷物」に驚く、
…こわ…、えっ? なに、このスーツケース!
まさかぁ? ここに、『泊まる』な・ん・て、
こと?ウソ!ゼッタイに!や・め・て~‼…
出迎えた咲は、顔が引きつる。
「イラッシャイマセ。いえ、
スミマセン、
『初めまして』、です…」
咲は、玄関に、チャン、と正座して、佐々木
の母を迎えた。佐々木の母は大きなデパート
のペーパーバッグと、スーツケースを玄関に
ダン‼っと、入れると、デパートのペーパー
バッグ方だけ、そのまま、バサッ!と咲に
手渡した。
「これ!どーぞぉ!
何がお好きなのかは
分かりませんけれど…」
…これは?「アンタのこと知らないから、
何を買って善いのか分かりませんでした!」
なの、だ、ろうか…ホントに、怖い…
「いいえ、そんなぁ~、
お気遣い
戴いてしまいまして…」
咲は、思いっきり引いたまま、一言、一言、
探りながら、柔らかく、返事をする。猛獣を
「興奮させない様に」との事らしい。
「失礼しました。
お待たせしてしまって、
どうぞ、
お上がり下さいませ 」
咲は、真新しいスリッパをキチンと揃えて、
お出しすると、スウッと、立ち上がり、
リビングドアを開けて、お待ちする。
「はぁ~い、はい、
待たされました。いつ!
新潟に来るかと
思っていましたのに…ねェ」
...ゲッツ!
そうきたかぁ~…
イチイチ、一言一言こうなっちゃうカンジ?
咲は笑顔が引きつったまま、口がポカンとあ
いたままになる。
佐々木の母は、先手をかまし、目を細め、
まだ、そんなに暑い季節でもないのに、扇子
で、首のあたりを仰ぎながら、リビングへ進
んできた。
咲は慌ててエアコンを入れた。…まさか、
その扇子は、凶器にならないよね?…
咲は、扇子に目がいく。
「素敵な、お扇子ですね!」
「はい、
アナタのモノだけ買うのが
嫌!だったから、
同じデパートで
買ってみました。さすが!
東京のデパートですね、
いい『お品』ばかりで、
迷ってしまって…」
「そうそう、キレイな、
娘さんたちも、東京には
イッパイいらして、
ビックリしました。
あんなに、たくさん、
美人さんが居るのだから、
そんな、女性たちも、駿には、
眩しいでしょう、に、ねぇ…」
…どういう意味?別に、
『アンタじゃなくても』
ってことか…
「そうなんですね…、
さぁ、どうぞ、
おかけになってください、
狭いところですが…」
咲は、直接は云い返さないで、穏やかに、
穏やかに、と、自分に言い聞かせている。
佐々木の母は登場したばかりだが、
やっぱり、
長居はしてほしくはないので、ここでも、
「着火」しない様に、できる事なら、スグに、
いつでも、話しを終わらせられるように、言
葉を選んで、あまり刺激しないようにする。
「まぁ~!
素敵なお部屋ですね、流石、
『建築家の先生』だわ~、
ソファも立派な事、これ?
ドコノなんですか?やっぱり、
有名な、
デザイナーさんのですか?」
佐々木の母は、すすめられるまま、腰かけて
はみたものの、キョロキョロと、周りを鋭い
目で「チェック」している。
「とんでも!ゴザイマセン、
ファニチャー量販店の物です」
咲は「どうせ分からないでしょ!」とのカン
ジで、適当に答えた。別に、バカには、して
いません…
「はぁ~?ファニチャー?
まぁ~、咲さん!
お茶は宜しいから、どうぞ、
アナタも腰かけて、よく、
お顔を見せてください。
田舎から出てきたので、
都会の、
エリートさんの娘さんの顔?
あら?娘さん?じゃぁ、
失礼かしら?」
…どうせ、
若くはありませんが、
息子さんだって
同じ年なので、
若くはありませんよ!…
「いえいえ!私なんて、
『何者』でもありません」
嫌味の言い合いにはしたくない、
咲は仕方がないので、お茶だけをサッサと
お出し、自分も腰かけた。佐々木の母は、
軽く会釈しただけで喋り続ける。
「まぁ、本当は、
アナタのご実家に、先ずは、
ご挨拶なのかもしれませんが、
なんだか、
順番がグジャグジャに
なっているでしょ?だから、
私も、先ずは、
アナタの処になんて考えて
しまいました。ここには、
駿も、
住むのかもしれませんしね!」
「えっ?あ~、
はい…駿さんがそう、
仰ったんですか?」
…えぇ~‼
「駿はここに住む」って、
言っちゃったの?それは、
困る!駿は?
なんで居ないんだろう、
どうしよう…
佐々木の母は、出されたお茶をゴクッと一口
だけ飲むと、今度は、急に立ち上がり、咲に
ことわる事もなく、ウロウロと、自分の手で、
あちらこちらの扉を開けて、物色しだした。
リビングでは、キャビネットの扉や、クロー
ゼット、廊下では、飾り棚のニッチの棚板の
裏まで覗き、洗面室から、バスルーム迄、頭
を突っ込んだ。
…うっ、オッ、えぇ~?ナニ、
この人!な・ん・で、こんなに、
チョコマカ、してるのぉ~!…
「お母さん~!あの?
どうぞ、リビングに
お戻りください。私、
昨日まで、仕事が、
忙しくて、帰宅が、
遅くなったものですから、
片付けなんかも、チャンと、
しておりませんので…」
なにを言っても無駄! ゼンゼン、佐々木の
母は止まらない。咲は、両腕を広げて止めよ
うと、佐々木の母の前に出るが、
見事にスルッと、かわされてしまったので、
咲は、もう、どうしようもなく、ため息しか
出ない。
「構いませんよ!
お仕事、大変なのは、
知っていますから‼
『先生』ですものね!
家の中の事なんて
できませんよねぇ!」
初めて訪れた処でも、云いたい事を言いなが
ら、スタスタと進み、とうとう、寝室まで入
ろうとしたところで、咲はダッシュして、必
死に阻止する。
「お母さん!
ここは、ダメです!」
咲はさすがに顔が真顔になり、鋭い目つきで
佐々木の母の前に立ちふさがった。
「そうなの?寝室なのね?
でも、
部屋が一つしかないから、
確かめたいわぁ~、
見せてチョウダイ!」
佐々木の母も譲らない。廊下で、二人はにら
み合いになった。
「お母さん、
ここは、無理です!」
咲も譲らない。寝室のドアが開けられない様
に、ドアにしがみつく、凄い形相で、「怖い」
「まぁ~、怖いぃ!
咲さん、
そ・ん・な・顔!
されるの?
駿がかわいそうだから、
そんな顔、
駿、には、見せないでねぇ、
お願いします!」
佐々木の母はペコリっと頭を下げた。
佐々木の母も、気が強い、自分の事を棚に上
げて、息子の事をもちだしてきた。不敵な笑
みを浮かべている。
「お母さん、もう、
勘弁してください。
リビングに戻りましょう…」
咲は、佐々木の母の背中に手を当てて、廊下
から押し出してみる。佐々木の母は、バツが
悪そうに、でも、抵抗しながら?
のけ反り、咲に押されても、本当は不自由で
はない足を引きずりながら、スリッパでスケ
ートをして、リビングに戻されると、諦めた
のか、再び、もうすっかり馴染んでしまった、
ソファにゆっくり腰かける。
「まぁ~、ねぇ、さっきも、
いったけれど、アナタは、
仕事が忙しいから、
家の中の『事』は無理よね?
なんで、ワザワザ、
結婚、ナンカしたの?」
―
咲は、腕ぐみしながら、ソファに腰かけてい
る佐々木の横に、背を向ける様に横を向いた
まま、腰で佐々木を押しだすように座った。
「あぁ…、あのスーツケース!
お母さんたら、
最初から、そのつもりだったのね…」
佐々木は、ソファの隅に追いやられる。
「あー、たぶんな…」
「私の部屋をチェックして、次に、
駿の処に往って、そこで、
自分が居すわって…、
駿を追い出せば、困った駿が、
私の処へ転がり込むって考えて…」
「えぇ~、そうなの?」茉由は驚き
「スゴイね!
実力行使じゃん!」梨沙は呆れ、
「だな!」 佐々木はムクレルし、
「フー」
「ふぅー」
「…...」 ため息と、落胆。
「あー」
佐々木は声を発したが、それ以上は口が動か
ない。
4人はしばらく考えた。
「ウーゥッ!もう、
辛気くさいねー、
ダメじゃん、
ナンも出てこないじゃん…」
梨沙はキレた?やっぱり、長く、ウダウダす
るのを好まない。こんな時には、全く違う事
を考える。
「んー、ん?ねぇー、
今度の連休、
キャンプにいかない⁉ 」
「いきなり何?」
あまりに唐突で、咲は、理解できない
「キャンプ?」
佐々木も驚き、聞き返す、
「…って?」
茉由も、また、(・・?) ハテナマークで、
キョトンとした。
「だって!煮詰まっちゃって、
どうしようもないんなら、
場所かえて、あっ!
仕事は大丈夫かな?うん…、
そう!気分かえようよぉー!
ねぇねぇ!どう?
予定、入れられる?」
スマホを手にして、皆の顔を確認しながらも、
なんだか、梨沙は、もう決めている?
「大丈夫だけど…」咲はつぶやき
「あー、まあなぁ…」佐々木も肯き、
「うん…キャンプなら…」茉由は少し考えて、
「子供たちも往って良い?」
茉由には、めずらしく、早い決断をした?
「もちろん!」梨沙は大歓迎した
「ウフ💛 じゃぁ…、
善いかも!」
茉由は喜んだ。
「...そうだな!」佐々木もノッテきた、
「うん…」咲も承知した。
「じゃぁ…すぐにおさえちゃうね!」
梨沙は皆に背を向けると、小声で、
どこかに電話を入れた。
「大丈夫だって!」
「ここかぁー!」
車を降りた佐々木は、広々としたlocationに
胸を拡げて深呼吸した。ここ何日かの、ウッ
トオシサから解放された、田舎育ちの佐々木
は息を吹き返す?
「スゴイね!」
助手席から降りた咲も、眼を見開いて感動し
た。
「ホントねぇ…、
さぁ、降りなさい…」
「うん!わぁ~スゴイ~」
「……」
茉由は二人の子を降ろした。茉由と子供二人
は、佐々木がレンタしたSUVに便乗してやっ
てきた。
5人とも、一台の車でこれた。持ち物は、意
外に少なく、日にちが無くても、スグに用意
できた。
キャンプなのに、皆、ホテルに泊まるような
感じの物しか持ってこなかった。梨沙がそれ
で良いと云ったから。
「なるほどね…、ここなら、
子供と、ビギナーズでも大丈夫ね!」
咲は、茉由の子供たちの事があるから、ここ
に到着するまでは不安もあったが納得した。
ここは、東京から車で、2時間程の処で、茉
由の子供たちも一緒だから、車の中で我慢さ
せるのにもちょうど良いくらいの処だった。
到着すると、その規模の大きさに驚き、施設
の充実感にも期待ができ、イメージできる。
今回は、梨沙の仕切りでスタートしたのだが、
その梨沙は…
「遅いじゃん!」
梨沙?は、佐々木の車は借り物だったために、
探すのが大変だったのか、かなり遠くから走
ってきた。
その姿に、車から降りたばかりの、佐々木と、
咲と、茉由は驚く。
「だれ?」 茉由は唖然とし、
「うっ!梨沙?」 咲は、声に詰まる。
「おい!」 佐々木も呆気にとられる。
「なぁ~に?」
梨沙は、キャンプなのに、ピンクピンクした
乙女チックな服装で、フェミニンさを出し、
髪は丸ふわボブ。で、ぽってり唇をとがらせ
た。それに…
梨沙の後ろには、少し大人な、ワイルドな感
じの髭を魅せつける、色黒な、コジャレた男
がついていた。なんだか、チグハグな感じも
するが、
この場の、凍り付いた空気を梨沙は、
ゼンゼン、
気にしていない。
「あー、ええーっと、
梨沙?そちらは…」
佐々木が、とりあえず、梨沙にふってみる。
「あっ、こちらは、
中村さん!キャンプの事、
詳しい人。今回も、
お願いしちゃった (⋈◍>◡<◍)。♡」
「初めまして、中村です!」
爽やかなオジサンの挨拶に、
「こんにちは!」咲は条件反射で挨拶し、
「はじめまして」茉由は営業用スマイルで、
「初めまして、佐々木と申します」
佐々木も頭を下げた。
「じゃぁ…、そんなカンジで、
よろしくね!」
梨沙は、サッサと先に進む。
今回のキャンプは、何でも揃っている、
備え付けられているキャンプ場で、
優雅なコットンテントに泊まれる処。
ここは、電気製品が使えるテントなので、
夏は扇風機、冬は電気カーペット付きで、
ソファやテーブルも中にあって、
ベッドの上で眠れる。
テラスも広々としていて、
夜空を眺めるのもイイカンジだし、
夕食は、テントの隣で、屋外BBQ、
朝食は隣接するホテルのレストランと、
ホテル泊とテント泊のいいとこどりができ、
アウトドア初心者にも子ども連れにも安心。
「あぁ~、だから、
ホテルに泊まるカンジ…、
なんて、梨沙は云ってたのね…」
茉由は、子供も連れてきたから、安心した。
「そうなの、だから、
私もね、こんなカンジでも平気!」
梨沙は、クルっと一回転して、可愛さをアピ
ールした。その様子に、中村さんは目を細め
て肯き、他の者は再び、呆れた。もう、この
ことは、しばらく、触れない様にしようと…
「じゃあ、子供たちも、
野放しで大丈夫ね?」
茉由は、サッサと話を変えた。
「そうだよ、ここには、
アスレチックや、
カート遊びもできるし、
男の子には良いじゃん!
お兄ちゃんに
任せて大丈夫でしょ?」
梨沙は、お兄ちゃんの肩をたたいた。
「はい、大丈夫です!」
お兄ちゃんも自分が楽しめるアトラクション
も見つけたようだ。ここは、たくさんの遊び
場がある。弟は、もう、お兄ちゃんの手を引
っ張り、遊びに行きたがった。
「お兄ちゃん!ぼく、
アスレチックにいく!」
「ハイハイ…」
「イッテラッシャイ、大丈夫よ!」
子供も楽しめる処は茉由には助かる。
「梨沙、善い処だね、ココ!」
何日も不機嫌だった咲も、
明るい表情になり、イイカンジだ。
「そうでしょ!中村さんに頼んで、
正解だったでしょ!」
「そうだね、皆さんに、
喜んでもらえるところだよ、
ここは…」
中村さんは優しく梨沙に語りかけると、梨沙
は中村さんの腕に飛びつく。小さい身体の梨
沙は、こんな服でこんな事をしたら、
子供子供して、まるで、大人な雰囲気の中村
さんと一緒になると、なんだか…親子?の様
にも、この二人は見えてしまう。
やっぱり…、この雰囲気を、どうして良いの
か、佐々木と、咲と、茉由は、再び固まった。
茉由は、子供を放したので、安全確認?に、
広いテントの中にもさっそく入り、少し、
ウロウロしながら、周りをキョロキョロと
してみる。
「ぅわ~、ここ、スゴイのね💛
私、キャンプ、初めてだから、
どうしようかと思っていたけれど…
テントが広々としてるし…
あぁー⁈
ベッドが2つ、それに…
ソファ‼テーブル、冷蔵庫!
電気ケトルに照明も…」
「外にだって、ハンモック、
ローチェアーに テーブル!
ラグジュアリーね!」
「うん!私と子供だけでも、
ここなら、平気!」
茉由は、もう、
ソファでリラックスしている。
「だな!」
佐々木も感心する。
「茉由、お子さんたち、
食事は平気?」
咲が気づかいをする。
「うん、いまのところ
アレルギーはないし、
お兄ちゃんも一緒だから。
なんか、ここ…、
食べる処もちゃんとあるね!」
「そうだよ! レストランも、
カフェもあるからね!」
梨沙は、mapを皆に見せた、
「そうね、放しッパで大丈夫なら、
お兄ちゃんに任せとく?
私たちも、何か食べない?」
咲はお腹が減ったようだ。
「そうね…」
「あー…」
「うん!」
「えぇ…」
大人たちは、眺めの良いレストランで、自然
農園直送の新鮮な野菜と地場産の食材にこだ
わったシェフおすすめランチを注文した。
でも…、テーブルに着くと、なおさら、
この、
変身した梨沙の事が気になる。
気に病んでいるはずの、咲と佐々木の事や、
茉由の佐藤の事もあるのに、なんだか、
三人は、この、強烈な明るさを出している、
梨沙の事が気になってしようがない。
それに、
謎の中村さんだって、キャラが濃い。
「あの…、梨沙と、中村さんて…」
咲が、なにげに、ふってみる。
「キャ!えっ?ワタシタチ?」
梨沙が、キャピキャピ感を出すと、それを、
ウザそうに、佐々木が梨沙に目を合わせずに、
料理の方を気にして、皿の上で魅せている色
鮮やかな野菜を愛でながら突っ込みを入れる、
「これ美味しそうじゃん、良いね!
で、梨沙と中村さん、いつから?」
「ヤダァ~!『梨沙と中村さん』って?
ワタシタチ、一緒にぃ~、
云われてるぅ~!」
なんか、ホントニ、ウザい…
「んん、ん…、あのね、
ソレじゃ、分からないじゃん…」
咲は、窘める様に、突っ込んでみる。
「 (m´・ω・`)m ゴメン… 」
それでも、梨沙はカワイ娘ぶる。
三人ともメンドクサクなってきた。
さすがに、梨沙はその空気を感じ、
二人の事を話し出した。
「アノネ!ワタシ、
ひとりキャンプに、
海に往ったんだけど、
そこで、なんでもデキる
中村さんに!
出会ってしまって…」
梨沙は、そう言うと、中村さんの腕にすがり、
中村さんの食事の邪魔をした。中村さんは、
食事の手を止め、梨沙の方へ、ゆっくりと
顔を寄せる。
「 デネ!中村さんたら…」
梨沙は、ムフフっと、はにかみながら、中村
さんの後ろに顔を隠す、中村さんは、テレる
ことなく、梨沙につかまれていない、空いて
いるもう一つの手で、梨沙の背中をさする。
「大丈夫?」
「 うん💛」
「…」
「…」
「…」
三人は、目配せして、
「聞かなきゃよかった?」
と、確認した。
「梨沙は、
チャーミングですよね…」
中村さんが、デレデレの梨沙に代わり、
自分の気持ちを語った。
「 僕は、自然が好きで、
海や山へ、よく往くのですが、
そこへ、梨沙が、一人で、
ヒョッコリ、突然、
登場してきた感じで…」
「小さくて、細いから、
最初は大丈夫かなって
思ったんですが、意外にも、
そんな、自然の中に居ても、
十分楽しんでいるようなので、
もっと、色々な処へ
連れて行きたくなってしまって…」
「このところ、三連休が
何度かあったので、
山に連れて行ったり…」
「...そうなの!ワタシ、
急に、キャンプ!
したくなっちゃって、
偶然?の出会いなの!」
「そうだね…、
出会いだね…」
二人は肯いた。
なんか…、
梨沙がこんなに変わるのだから、この中村さ
んに、そうとう、お熱のようだ。これは…当
事者だけの、まっピンクな…、二人の世界が
あるようだ…、でも、
…ちゃーみんぐ、って、
なに?…、って、だれ?
この…、梨沙が、か?…
それでも、
佐々木は、とりあえず、同期の梨沙を守る。
「そうですか…、
梨沙は良いヤツなんで、
チャントしてくださいね!」
佐々木は、爽やかに、中村さんにクギを刺し
た。中村さんの事は、まだ、よくは分からな
いけれど、
梨沙は、人たらしで、渡る世間に鬼はなし、
な、カンジなので、何とかなるんじゃない
かと思ったようだ。
咲と茉由も、梨沙がとても幸せそうなので、
この二人を見守る事にした。
夕方、遊び疲れた子供たちが戻ってきた。
今晩のテント前での食事は、中村さんが仕切
っている。
テントサイトでは、BBQが用意され、そこは、
佐々木に任された。
中村さんは、トマトとガーリック、緑の香味
野菜、スパイス、と、ベーコンの善い香りを
させながら、手作りのミネストローネの鍋を、
テーブルの横に出した。子供たちに、中村さ
んが声をかける。
「おーい!こっちにおいでー!」
中村さんはグランピングテント前のテラスに
出されたテーブルに子供たちを案内した。
テーブルの上には、
茉由、咲、梨沙、の、女性たちが喜ぶ、新鮮
な野菜と、サーモン、ナッツ、食べられる、
バラなどの花々がちりばめられた、大皿の、
見事な、魅せる、エディブルフラワーサラダ
や、子供用に用意された、
冷たいアップルサイダーの中に、コロン!と、
真ん丸くカットされた、フレッシュフルーツ
たちが入った、色鮮やかな、涼しげな、水分
補給もできる、フルーツカクテルや、
アルミホイルで中身が隠された、ホットドッ
グのような形のものがいくつも置かれている。
中村さんは仕切る。
「このホットドックは、
中身が分からないだろ!
どんな味がするのかな?
そ・れ・ぞ・れ、
いろんな味があるんだ、
さぁー、
好きな物を自分で選んで、
BBQの処で温めてから
召し上がれ!」
「わぁー、おもしろそー、
ぼく、これにする!」
「じゃぁ…、
ぼくは、これを…」
中村さんは、子供たちを楽しませる事を考え
てくれていた。謎のホットドックは、ピザ味、
カレー味、ケチャップとマスタード味、大人
用には、ペストゥ・ジェノヴェーゼ、と、
色々作ってくれた。
それだけじゃない。選んだホットドックを温
めている間に、テーブルに戻った子供たちに、
腰かける様に椅子を引いてすすめると、
テーブルの上を良く見る様に手招きする。
「ほら、テーブルを、
よーく見てごらん、
君たちの名前があるかな?」
「なまえ?」
「なんだろ…」
子供たちは不思議そうにテーブルの上を探し
てみる。
「ホントだ、
ありがとうございます!」
お兄ちゃんは、すぐに見つけた。
中村さんは両腕を拡げて声をハル。
「そう!君たちの席の前には、
ネームプレートがあるだろ!
このパスタを、自分たちで、
ミネストローネの中に入れて、
スープを完成させよう!」
お兄ちゃんは、弟にジェスチャーで教えて
あげた。弟も気づいた、
「わぁー、ぼくのなまえだー!
アルファベットのなまえだー、
なんで、オジサン、しっているの?」
「さぁー、なんでかな?
オジサンは、
魔法がつかえるのかな!」
「うそだぁー!」
「ハハハ!」
子供たちは嬉しそうだ。
中村さんは、得意げな顔をして、鍋の中にパ
スタを入れる様に、子供たちの手伝いをした。
子供たちが喜んだものは、
100%イタリア産有機デュラム小麦の、アル
ファベットの形をした、プレーン・トマト・
ほうれん草の3色のカラフルなパスタを、
ショートパスタをプレート状に並べた上に、
その、アルファベットで今回のメンバーそれ
ぞれの名前に並べて、ネームプレートをつく
り、テーブルの席に並べてあったもの。
子供だけではなく、茉由たち大人の分もあり、
各自、ぞの席に座ると、自分用のパスタを、
ミネストローネの中に入れて、自分だけの
スープを創った。
「パスタが柔らかくなったら
完成だぞ!」
中村さんが皆に声をかける。
なにも手伝う事もなく、火の傍にも居ないの
で、夜風が心地よく、涼しげに感じられ、
ただ、腰かけたまま、おもてなし、を受ける、
茉由、咲、梨沙は、冷えた、スパークリング
ワインを片手に、
「楽しいわね!」茉由は感動する。
「おしゃれかも…」咲も喜ぶ
「…でしょ!」
梨沙は、中村さんがやった事なのに、
なぜか
得意な顔をする。
中村さんはさりげなく、知り合ったばかりな
のに、「チャンと皆の名前を覚えました」
が、できる人だ。
一見、ワイルドそうな男だが、繊細なところ
まで気が回り、大人な振舞い、対応ができる
だけではなく、人に対応する事に慣れている
のか…
「俺のも作っといて!」
ちょっと離れた、独りぼっちの佐々木は、
テーブルでの盛り上がりが気になるのか、
BBQ前から叫ぶ、
「自分で食べる時にやってぇー」
咲はからかう。
「なんだとぉー!」
佐々木は、寂しがる。
「ハハハハ!」
「ハハハハ!」
「ハハハハ!」
「フフフフフ!」
「フフフフフ!」
「フフフフフ!」
こんなに、サラッとした、おしゃれな
演出をやってみせる。
梨沙は、そんな、中村さんに、
また、ドキドキした。
ここの夜は、
素敵なプレゼントをくれる。
ここには、街の灯りがなく、
キラキラキラッ…と、
満天の星空!が、広がっている。
子供たちが寝た後は、大人たちの時間。
咲と佐々木、茉由は、それぞれに、気に病ん
でいる事があったが、この100点満点の、☆
空を見上げると、ぼぉ~っとして、躰の力が
抜けてくる、
なんだか、頭の中まで、澄んだ空気が入って
くるように感じ、躰は軽くなり、心地よい。
いまは、このまま、眠りにつくのがもったい
ない時間に感じられる。大きさの違う、どの
星も、同じように光り輝き、下に居る者を、
優しく照らす。
ここは、暗い夜なのに、明るかった。
茉由は、皆の顔色をうかがいながら、やっと、
云えなかった、自分の反省の気持ちを伝える。
「あのね…、私、この前、
咲と梨沙に、
変なこと言っちゃって…、
ゴメンね」
「えっ?あぁ…、そうだね…、
私も、茉由に、自分の考え、
圧しつけたかもって、
気になってたの…、ごめんね!」
咲はすぐに返事をくれた。
「なに?変な事って?
あれ?忘れてた!」
梨沙はおとぼけてくれた。
「二人とも、
心配してくれたんだよね、
ありがとう!」
茉由は付け加えた。
「今回は、翔太呼ばなかったの、
分かってくれた?皆、
同期は、大切だからさ!」
梨沙の言葉に、咲も肯いた。
「うん」
茉由も肯いた。
「なんだ?おまえら、
何の話?」
佐々木には分からない話。
「駿は、良いの!」
咲は、佐々木の背中を押して、
茉由と、梨沙と、自分から離した。
「おっ!なんだよ!」
佐々木は、中村さんの横に、逃げた。
中村さんは、やさしい笑みを魅せた。
それぞれが、ここでの特別な時間を過ごせ、
スッキリしたのかと思っていたら、まだ、
スッキリしない事が残っていた。
朝、マイナスイオンタップリの、ヒンヤリと
した、新鮮な空気の中での朝食の時間、咲
は、すぐ隣に一緒に居る佐々木に、ワザと、
口をきかない。
咲は、やっぱり、どうしたって、同居は無理
と決めつけたままだった。今までの、自分の
生活リズムが壊されるのは我慢ができないし、
エドワード・T・ホールの「対人距離の分類」
を参考に、人との距離をいつも大切に考えて
いる。だから、どんなに佐々木の事を思って
いても、一日中ずっとベタベタなんてできな
い。
「もう...
ダメじゃん」
咲は、ここでのひと時は楽しめても、戻った
後の生活の事を考えたら、暗いままだ。
「…そうか」
佐々木も、咲の様子に、落胆する。
―
咲は今、仕事が充実していて、一日に仕事
をしている時間は、12時間以上。10時過
ぎに仕事を終えて、自宅に帰る。でも、睡
眠時間は、5時間はとりたい。すると、職
場の往復と、食事や入浴時間を覗くと、
空いている時間はほとんどない。
それに、咲の設計の仕事は、自分で決めた
時間には終わりに出来る仕事ではない。
「いつまでに仕上げる」との期日までに終
わらせる必要があるから、
図面が出来上がるまでは仕事を終わる事
ができない。それに加え、設計変更も何度
もあって、その繰り返しになる。自分の家
庭、都合に合わせて生活をするのは難しい。
佐々木は、ベタベタする関係は好まないか
ら、休日に、佐々木に向かう時間があれば
良い。それならば、別居をしていた方が、
平日は、仕事を中心にした時間の管理も楽
にできる。「週末婚」「別居婚」が咲きに
は合っている。
佐々木も、
仕事も、順調で、忙しく、時間が足りない
くらいだから、仕事日には自宅に戻れば、
寝るくらいの時間しかない。
帰宅したら、入浴を早く済ませ、少しでも
睡眠時間を確保したい。営業は、人と向き
合い、先方の都合で動くことが多い。
仕事日には、何時に仕事が終わるのかなん
てハッキリはしないから、妻に帰宅時間は
伝えられない、
家庭で、妻に「待っていられる」のは、
それが気になってしまうから、困る。
佐々木は、
自分の為に、「相手に無駄な時間を過ごさ
せる」、そんな事を、大切な人にさせたく
はないと考えている。佐々木らしい優しさ、
が、ある。
「好きな人のために…」は、咲にも、
佐々木にも、重いのかもしれない。
相手を最大限に尊敬し、負担にならない、
無理をさせない、無駄なことはしない。
咲と佐々木は、二人とも、同じことを、
考えている。 ―
「ゼッタイに、別居婚で、
上手くいくと
思っていたのに…」
咲は、チャンと、佐々木と、二人で
考えたつもりだったのに、思い通り
にいかない事を悔しがる。
「俺だって、そう、
思っていたけどさー」
佐々木は言葉を添えるが、
ハッキリとはさせられない?
「ゼッタイに、同居は、
ムリでしょ!」
咲は妥協を許さないように念を押す。
佐々木も咲に同調しているのに、
キノドクだ。
でも、咲と佐々木には強い見方が居る。
この梨沙は、ここでは、マイアガッテいても、
ちゃんと、機転も利く、
再び視野が狭くなった、パニクッたままの咲
に、気づかせるように、サラッと言ってみる。
「ねぇー、だったら、
まずは、洗面化粧台を
ツインボウルにすれば良いし、
ベッドも、1つじゃなくて、
2つにすればイイじゃん!
なんなら、咲のとこ、
寝室もめちゃ広だけど、
リビングだって広いんだし、
駿のベッドはリビングでも…」
「あー?
勘弁しろよ…」
「あっ⁉ それ!
善いじゃん…」
佐々木は呆れるが、咲は、一瞬で、
表情が変わった。梨沙の意見に飛びついた。
この程度なら、すぐに、イメージができた
ようだ。
「そうね…、ボール部に、
複数の水栓金具が取り付けられる、
スクエアの、
幅の広いものもあるし、
駿のベッドは…
離れた処に設置する、には…」
「おい!」
「はい?」
佐々木は拗ねて、咲はとぼけた。
「なんだぁー、良かったぁー」
「でしょ!」
茉由はホッとして、
梨沙は仕事柄、リフォームの知識もあるから
ドヤ顔だった。
...ヨカッタ…
咲は、スッキリした顔で、スグに、頭の中で、
プランニングを始めた。床面積の広い咲の処
は、間取り変更も可能だし、自社物件だから、
必要な図面もそろっている。
咲だけではなく梨沙も、仕事上、協力業者だ
って、身近に何社も付き合いがあるのだから、
工事だって、スグに取り掛かれる。
まぁ…、大掛かりにしなくても、この程度の
事なら…
そう、
冷静になれば、建築士の咲には大変ではない。
すると、思わぬところから、声がかけられた、
「…でしたら、僕の処にも、
寄ってみてください…」
この話を、少し離れたところで聞いていた
中村さん、だった。
「あの…、僕、
駒沢公園近くに、
ショールーム創ったんで…、
あっ、デザイン工房の」
皆、キョトンとした。
「中村さん?
って…、
デザイナーなの?」
梨沙の突っ込みは早い、
「はい、
インテリアプランナーなんです 」
中村さんは、急に、ビジネスモードの
口調に変わった。
「エッ?」
梨沙は目を丸くして驚き、
「そうなんですね…」
佐々木は、急に神妙な面持ちになる。
「インテリアプランナーですか…」
言葉を繰り返した咲は、戸惑う。
これは、大変な事になった。
せっかく、梨沙と中村さんの交際を、応援し
始めたたばかりだったのに、これは大問題だ
った。
「...」
「...」
「...」
「...」
咲だけではなく、佐々木も、茉由も、
そして
梨沙も、困惑した表情に変わった。
この、中村さんが、
「インテリアプランナー」
であることに…
せっかく、ここでの楽しい時間を過ごし、
これからも、
梨沙と中村さんとの付き合いは、明るく、
続いて行くと、皆、思っていたのに、
中村さんの仕事を知ったとたん、なぜ、皆が
困惑したのか、それは…、
梨沙、茉由、佐々木、咲たちが勤める、あの、
保守的な会社に、原因があった。
この会社は、関東で手広く、マンションを造
り、販売し、建物管理をしている会社で、
いまどきに珍しく、男性優位なところがある
会社だった。そんな中、
梨沙、咲、茉由たちは、同期で助け合い、何
とか頑張ってきたが、それに加えて閉鎖的?
なところもある。
それは、
社員や、社員でなくても、この会社で働く者
には、暗黙の決まりごとがあって、配偶者、
結婚相手には、「同業他社は認めない」。
なので、採用段階でも、この事は、第一次面
接で確認されるほど、徹底されていた。
咲は同期の佐々木と結婚し、高井も部下の亜
弥と結婚した。これは社内結婚なので、全く
問題が無いし、茉由も、社外ではあるが、他
の業種の、医師と結婚したので問題が無い。
けれど、中村さんは、社外の人であって、
インテリアプランナーならば、建物に関する
仕事で、同じ業界の他社の者になってしまう
ので、梨沙は、結婚を認められず、結婚を前
提のお付き合いができなくなってしまう。
もしも、このまま、お付き合いをすすめ、結
婚するのならば、梨沙は「結婚退職」させら
れてしまう。この会社は、そういう会社だっ
た。
この事を、いまは、まだ、梨沙も、茉由も、
咲も、佐々木も、中村さんには言えない。
「梨沙には酷だね…」咲はつぶやき、
「困ったな…」 佐々木も、困って、
「好きになってから、
分かったなんて…」
茉由は、梨沙の事を思うと辛い。
「……」
梨沙は呆然とした。
でも、やっぱり…、好き
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