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「クロくんっ」
クロくんの腕の中に飛び込んでぎゅっと抱き着くとしっかり抱きしめ返してくれる腕の強さに安心して。
「クロくんと……、また夏中に花火したいな」
「また? じゃあ、今夜もしちゃお?」
「え?」
「よし、花火も買おう! あ、先に彩未さん家に行って着替えでしょ、んで明日の着替えも持って家から仕事に行けるようにして、」
「クロくん?」
「だって……んな可愛いこと言われたら、離したくなくなるでしょ」
でしょ、って耳元で響く低音ボイスにビクンと身体が震えると。
それに気を良くしてクスリと笑って、ダメ? なんて首を傾げて甘えてくる。
ズルイ、そんな風にクロくんに甘えられたら私が逆らえないこと知ってるでしょ。
嫌じゃないって首を振ったら嬉しそうに私を抱きしめてくれる。
「あ、雨、降ってきちゃったかも」
クロくんの肩越しに見える窓からの明かりが少し暗くなったのを感じて呟いた私の言葉に。
「本当だ、降ってきちゃったね」
クロくんに手を引かれてベッド脇の窓、レースのカーテンを少しだけ開けると。
薄曇りな空と窓にあたる大粒の雨。
ベッドの上から、見下ろした先の道路は黒く色を変えていき、頭を隠すようにして走っていく人たち。
「すぐ止むかな? 夜、花火、できるかな」
「多分ね、にわか雨だよ、きっと」
私の不服そうな声にクロくんは、大丈夫だよと、頭を撫でてくれて。
「もうちょっと雨宿りしとこ、彩未さん」
そう言って笑った目がふと色を持って少し細まって、それから。
急に塞がれた熱い熱い唇が私の思考回路まるごと焼き尽くすように飲み込んでく。
瞑った暗がりの中で。
金魚花火、ポタポタ落ちた。
【完】
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