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私が手伝うと言ってもクロくんは大丈夫、座っててと。
食後にまた珈琲を入れてくれて食器を洗ってる。
いつもそう、家に来てご飯作ってくれる時も片づけまで全部やってくれちゃう。
あまり甘やかすともっと甘えたくなるんだよ、女の子は、って女の子って年齢じゃないかもしれないけれど。
……、クロくんは私じゃない彼女にもこうして優しかったんだろうな、きっと。
過る思いを追い払うように首を振って、だけど。
よく見たら、今使ってるコーヒーカップだってお揃いだし。
二個あった枕だって……。
クロくんの家にあるものが疑念を抱けば全部そう見えるようになっちゃって。
「クロくん、私帰るね」
「え?」
食器を洗い流す水音で聞こえなかったのか手を止めて振り返ったクロくんは。
立ち上がり帰り支度を始めた私に。
「なん、で……?」
驚いた顔をしている彼のそんな目を見ているのが辛くなって。
「着替えたい、なって……、後ちょっと眠くて頭痛がしてるの。ごめんね、お邪魔しました」
視線を外したままで彼の横を通り過ぎようとして。
「さっきから、何か変……、彩未さん」
と腕を掴まれ引き留められた。
「もしかして……、本当は嫌だった? その……、オレとシタコト」
まるでこの世の終りとでも言いたげなショックを受けた悲しい顔で私を見下ろすその顔は。
4ヶ月前、私が突き放した時と何も変わってない、怒られた大型犬のようにションボリとしていて。
そして私がこの顔に弱いことも変わってないのだ……。
「嫌じゃ、ないよ。嫌じゃなくて……、嬉しかったの、本当だよ?」
それは信じて欲しい、何度も私を愛してくれたのが嬉しくて、幸せで。
だから、そっとクロくんを抱きしめた。
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