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喉の調子を取り戻した黒瀬は一呼吸を置いて泉に答えた。
「付き合ってる人は……今はいないよ」
「“今は”……ってことは昔はいたんだ」
「もうやめてよ。そういう意地悪な質問するの」
顔を赤くする黒瀬に泉は笑って謝罪した。
「お前の困った顔を見るとついからかいたくなってさ」
「うっわ~……どSだねぇ。泉くんは」
二人は緑茶で喉を潤しながら昔の話に花を咲かせていると、隣の部屋で大人しくしていたリースが再び吠えだした。
黒瀬はまたかという顔でため息を吐く。
「ここ一階だからさ、アパートだと通行人とか隣の人とか、人の足音するとよく吠えるんだよ」
「ここってペット禁止なの?」
──黒瀬は首を横に振った。
「ペット飼うのは全然オーケー。でもあんまりうるさいと近所迷惑になるからさ。クレーム来ないか心配なんだよね」
「そっか……壁とか防音対策してる?」
「うん。一応は。でもどこまで遮断できてるか分かんない」
泉はしきりに吠えるリースを見てるうちにおかしいことに気がつく──
リースはベランダや玄関、壁や窓に向かって吠えている訳ではなく、押し入れに向かってしきりに吠え続けていた──……。
“押し入れの中に誰かいるの?”と黒瀬に聞きたかったが、泉にそれを聞く勇気はなかった。
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