訪問徴収

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訪問徴収

 銃口から煌めく閃光と耳を刺す破裂音。  同時に隣で倒れる後輩の刑事。  相棒を失ったときのことを、相澤はふとしたときに思い出してしまう。そのことがきっかけで、相澤が刑事課から交通課に異動して数年が経っていた。  交通課の仕事には慣れたが、犯罪に立ち向かうために警察官になった相澤は刑事課に戻ることを切望していた。 「相澤くん。ちょっといいかい?」  上司に話しかけられて、書類仕事に勤しんでいた相澤はパソコンの画面から上司へと目線を移した。 「なんですか?」 「この金光という男のところに訪問徴収に行ってほしいんだけど」  上司は相澤のタブレット端末に情報を送った。  相澤は自分のタブレットを操作して、金光という男の情報を眺めた。違法駐車の反則金の滞納額が十万円を超えている。 「十万円とはこりゃまたすごいですね」  相澤は素直に感心してしまう。駐車違反を十回近く繰り返さないと、反則金が十万円を超えることはないからだ。  上司は困ったように薄くなった頭を掻いた。 「そうなんだよ。このままだと差し押さえしないといけなくなるから、なんとか払ってもらいたいんだよね」 「わかりました」  相澤はタブレットを机の上に置いた。 「頼むよ」  上司は相澤の肩を叩いて、去っていく。 「六車! 仕事だ、行くぞ」  相澤は向かい側の席に座っている部下の六車に声をかけた。 「えー、相澤さん。このクソ暑い日にまた外出るんすか? 今日の東京の最高気温、40℃らしいですよー? やめときましょーよー」  駄々をこねる六車に説教でも噛ましてやろうかと思ったが、いくら注意しても六車の態度が変わることがないのはわかっているので、相澤は諦めた。  それに実際、2070年の東京は地球温暖化で酷暑もいいところだった。相澤もできれば外に出たくない。  だが、そういうわけにもいかない。これも市民の生活を守る交通課の警察官としての仕事の一環だからだ。 「いいから行くぞ」 「はーい」  六車の間の抜けた返事を聞きながら、相澤はタブレット端末を鞄に詰め込んだ。
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