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拳銃とパトカーのキーを取ってきて、相澤はエレベーターで屋上へと向かう。
先に到着していた六車にキーを渡して、六車をパトカーの運転席に座らせた。
相澤は助手席に座り、ハンドルの左にタブレットを設置し、アプリを起動した。
徴収対象である金光の自宅住所を入力すると、自動音声が滑らかな発音で、
「自動運転を開始します」
と告げ、パトカーは揺れることなく浮かび上がった。
ゆっくりと加速しながらパトカーは飛行し、多くの車が行き交う空中幹線道路へスムーズに合流する。
「それで、今回は何しに行くんすか?」
六車が耳の穴を掻きながら、相澤に尋ねる。
「こいつに訪問徴収へ行く」
相澤は金光のデータを六車のタブレットに送信した。
六車は自分のタブレットを見て、声を上げた。
「うわ! これ金光博士じゃないすか!?」
「なんだ。知ってるのか?」
「この前、光速度エンジンを発表した人っすよ。まあ、ワープ航法が実用化しつつある今となっては、光に近い速度で移動してもしょうがないですけどね」
「そうなのか?」
「ワープっていうのは、空間を捻じ曲げて他のところと繋げるんで、一瞬で遠くにいけますからね。対して光は速いと言っても、太陽まで八分、太陽系から一番近い恒星までは四年以上かかりますし」
「四年!? 随分かかるんだな……」
「それもワープなら一瞬で済むっす。あと、光に近い速度で移動すると、ウラシマ効果がありますからね。光速に近づけは近づくほど時間の流れ方がゼロに近づくんすよ。数ヶ月の宇宙旅行から帰ってきたら何十年も時間が過ぎていたみたいな話、聞いたことあるでしょ?」
「ああ……何かの物語にあったような」
「そういうわけで、光速度エンジンは凄い技術の割には使い道がないという評判なんすよね」
「なるほどなあ。しかし、随分詳しいんだな」
「まあ、一応、大学は理系でしたからね」
「あー、そういえば機械工学科だとか言ってたか」
機械工学を応用した交通事故の分析という名目での交通課への配置なのだろうが、六車がそういう仕事をしているところはイマイチ見たことがなかった。今の時代、だいたいの分析は人工知能がやってくれるので、細かい検証を人間がすることが少なくなっている。
そうこうしているうちに、パトカーは空中幹線道路を離れ、一軒の大きな屋敷の前に到着した。
「自動運転を終了します」とアナウンスが鳴り、パトカーが停止する。
「よし、行くぞ」
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