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相澤が車のドアを開けると、むせ返るような熱気が車内になだれ込んできた。遠くのアスファルトが陽炎で揺らめいている。
家の前に立って、相澤は表札に金光と書かれているのを確認する。
六車は金光邸を眺めて、
「へー、結構大きな家ですねえ。金はありそうなのに、十万ぽっちの反則金も払わないなんて」
と率直に感想を述べた。
相澤は門の横にあるチャイムを押した。軽快な呼び鈴が鳴り響くが、待てども返事は帰ってこない。
もう一度チャイムを鳴らすが、結果は同じだ。
「えー、留守っすかー? 暑い中わざわざ来たのにー!」
六車はうなだれて文句を垂れる。
諦めて帰ろうかと思った相澤だったが、その前に確認しておきたいことがあって、鞄からタブレットを取り出した。タブレットを操作して、金光邸の電力使用量の確認ができるか申請をする。
電力使用量はオンラインで繋がっている電気メーターによって、電力会社が把握している。それは個人情報であるが、警察の職務のためならば開示請求することができる。
申請は警察本部の人工知能によって即座に許可され、タブレットには金光邸の電力使用量が表示された。その数値は金光邸が大きいとはいえ、高い数値であった。
「留守にしては電気を使いすぎだ。居留守かもしれん」
相澤はタブレットを鞄に戻しながら、六車を見た。六車はその手があったかと感心しているようだった。
相澤は金光邸のドアに向かって声を張り上げる。
「金光さん、いるのはわかってるんですよ! 警察です!」
少しの静寂の後、家の中から物音がした。
門の前で待っていると、ドアが開き中から金光と思わしき初老の男性が現れた。
「あ、金光さ――」
『ん』と発音しようとした相澤の口が止まった。金光が黒い何かを相澤のほうへ向けたからだ。
それが何なのか認識する前に、破裂音が轟き、相澤の耳をつんざいた。金光が持っているのが拳銃であることに気付いた瞬間には、再び銃声が鳴り響く。
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