半端者

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 空っ風の紋太という男が、幼少期を過ごした江戸に戻り、浅草の外れで一人暮らしを始めたのが、二年前のことである。それまでは、上州のあたりを転々としていた。  戻ってきたとき、まず先に足を向けたのが、馬喰町だった。そこにはかつて、【さくらや】という一膳飯屋があり、そこの息子の佐七という少年と、よく一緒に遊んだのだった。だが【さくらや】はすでになく、佐七の行方も分からなかった。無理もない。父親が流行病で死に、母親の故郷である上州三日月村に身を寄せるため、この江戸を発ってから二十年は過ぎていたのだ。  それでよかったのかもしれない。紋太はそう思っている。再会できたとしても、どんな顔をして会えばいいものか。  すでに紋太は、裏の世界では「それなりに」名の知れた人間になってしまっていたのである。母親も三日月村に着いて五年と経たないうちに病死してしまい、それからの紋太は人の世の裏道をずっと歩いてきた。
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